新十両・宇良が角界の常識を変える 低い立ち合いを武器に居反りが出るか!?

荒井太郎

2年で約40キロ増、そしてプロ入りへ

レスリング仕込みの低い立ち合いを武器に一気に番付を上げた宇良。十両では居反りの披露となるか? 【写真は共同】

 高校入学時で身長は152センチ。稽古では誰からも相手に指名されず、他校との合同稽古のときは「体育館でトレーニングでもしていろ」と稽古場から退去を命じられたこともある。「悔しくはなかった。勝てるわけはないと思っていたから」と本人もあきらめの境地だった。一方で「足りないのは体だけ。技術がないとは思ったことがない」という強烈な自負心も抱いていた。

 関西学院大に進学すると85キロあった体重をわずか2カ月で65キロまで落とし、体重別大会ではタイトルを手にするが、2年のときに全くの無名選手に敗れたことで転機は訪れた。

「中学から勝てないままでいいのか」

 大学3年からは体重別大会を目指すのを止め、体作りに着手した。稽古以外にも独学で学んだトレーニング方法を実践し、ポケットには常に米一合のおにぎりをラップに包んで持ち歩いた。65キロだった体重は大学卒業時で107キロになっていた。体ができるとこれまでに習得した技術が試合でも生き、居反りも駆使するまでになった。3年生のときの世界選手権軽量級で優勝。これを機に「プロで挑戦したい」と思い立った。

師匠は十両での居反りを“予告”

 木瀬部屋への入門時は「2年で関取になりたい」と宣言し、「大きなことを言ってしまった」と後悔したこともあった。しかし、「1カ月に1キロずつ増やしていくという細かい目標を立ててきた」と地道な努力が実り、想定していたより1年も早く関取の座を射止めた。師匠の木瀬親方(元幕内・肥後ノ海)は「相撲に打ち込む姿勢が人とは違う。それがスピード出世につながった。体のことやトレーニング方法を研究してよく知っている。強くなりますよ。十両は通過点」とまな弟子の頑張りに目を細める。

 居反りは決まれば豪快だが攻め込まれた際に相手の勢いも利用する、いわば“捨て身技”で用いられるケースが多い。しかし、木瀬親方は「宇良は“攻める居反り”。普通の人にはできないし、それだけ力があるということ。十両に上がったほうが出やすいんじゃないか」と“予告”。稽古場ではすでに3回も決めているという。本人も「狙ってできる技ではないけど、封印したわけじゃない。形になったら出します」とあどけない表情ながら不敵な笑みを浮かべる。

「1人の力士を手本にしたり、憧れの力士もいない」とキッパリ言い切る反り技のスペシャリスト。当然だろう。レスリングのタックルのような低い立ち合いから、足を取るか一気に押し込み、相手の懐に潜れば反り技もある。過去にそんな相撲を取る力士はいなかったのだから。

 負け続けの相撲人生がまるでオセロゲームのように反転し始めてまだ3年。伸びしろはまだまだこんなものではない。1人の超個性派力士が角界の常識を覆そうとしている。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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