新10番・大儀見に芽生えた責任と覚悟 成長の先の覚醒を待つなでしこのエース

小澤一郎

取り組んできたシュートのバリエーションと精度の向上

大儀見はこの半年あまり、今あるものを一度「捨てる」覚悟を持って自分を変化させてきた 【写真は共同】

 加えて、ストライカーとしてのシュートのバリエーションと精度の向上は、今大会で確実に日の目を見ることになるだろう。大儀見はこの半年あまり、結果を残し続けるために今あるものを一度「捨てる」覚悟を持って自分を変化させてきた。捨てたことの一つが、長年取り組んできた体幹トレーニングやチューブトレーニング。身体を鍛えて固める動作よりも、「緩める」「関節を曲げて使う」意識を高めて「固めることも、緩ませることもできる身体」をすでに作り上げている。

 なぜ身体を緩めることが大切なのか。大儀見は次のように説明する。

「ストライカーの場合は特にシュートシーンで力んだ瞬間、GKに読まれやすくなります。筋肉に力が入れば入るほど筋疲労も早くなるし、固い筋肉は関節の動きを制限し、弛緩(しかん)している筋肉は可動性を高めます。カナダでの女子W杯決勝で米国のGKホープ・ソロ選手から奪ったゴールは、身体中の関節が曲がっていなければ打てなかったシュートです。あの場面で私が速いシュートを打っていれば、世界最高レベルにある彼女の素早い反応でセーブされていたと思います」

 これは12年のロンドン五輪前からパーソナルに技術指導を受ける、元Jリーガーで現スポーツジャーナリストの中西哲生氏の論理でもある。“中西メソッド”の一番の理解者であり実践者でもある大儀見は、「筋肉を使ってボールを蹴っている時は出力が大きすぎるため、ボールのコントロールが定まらないし、枠の上にいきやすい。無駄な力を使わず最大限の効果を引き出すためにも身体を緩めて骨でシュートを打つイメージを持っています」と付け加える。

五輪アジア最終予選へ静かに闘志を燃やす

「最近の私は、どう自分を覚醒させられるかについて考えています」と語る大儀見 【Getty Images】

 年明けからはリオ五輪に向けた“秘密兵器”としてミドルレンジからのアウトカーブのシュートに特化したトレーニングに励み、「再現性の高いシュート」として早くも体得している。大儀見がバイタルエリアで前向きにボールを持ってアウトカーブのシュートを打つ場面が増えてくれば、なでしこジャパンのゴールと勝利の確率は確実に高まるだろう。ミドルレンジからのシュートとなるが、大儀見は「距離が長ければ長いほど動作はゆっくり、インパクトも弱めもイメージで蹴らなければいけない」と話す。

「身体の全体バランスを意識し、足首や膝、股関節といった全体の関節を適切に屈曲させ、蹴った後も丁寧に着地し、インパクトをできるだけ穏やかにするとボールが飛びます。さらに、足の中心から少しだけ外側(薬指と中指の間)でボールを捉えると、効果的にエネルギーがボールに伝わります」

 やみくもに強いシュートを打つ、筋力任せで力んで蹴るのではなく、身体構造や自らの身体の特徴をきちんと把握した上で、大儀見はシュートモーションの動作を因数分解し、一つ一つ適切な動きを意識として言語化しているのだ。そして、「点が決まるための」シュートフォームを試合で遂行できるよう、無意識レベルにまで落とし込んでいる。それが大儀見の現在地であり、再現性の高いシュートが打てるストライカーたるゆえんなのだ。

「最近の私は、どう自分を覚醒させられるかについて考えています」と話す大儀見。もはや「進化、成長していくのは当たり前」だと受け止めている。

「進化や成長は自分の意志、意識によってイメージ通りに進んでいくもの。覚醒というのは自分の思いもよらぬところで訪れる化学変化。世界大会というのは覚醒するためには絶好の舞台なので、絶対にリオ五輪の出場権を獲得したい」

 静かに闘志を燃やすなでしこジャパンのエースであり新リーダー、“新10番”のアジア最終予選での活躍とゴールに期待したい。

結果を出すための「合わせる」技術(PR)

著者:大儀見優季
発行:実業之日本社
発売日:2月20日

なでしこジャパンのエースFWが心と身体を磨く究極のメソッドを初公開!

 競争が激しい世界で結果を出し続ける大儀見優季が導き出した、自分が変わるための新・思考術! 変わりたいのに変われない……それは、あなたの心が弱いせいではない。変わる方法、変わりたいと思う具体像が分からないから。サッカーという舞台でそんな悩みに正面から向き合い続けてきた大儀見。彼女がサッカー人生で導き出した思考術には、結果を出し続けるための新メソッドが満載。本書を読んで自分を見つめれば、あなたの人生も確実に、そして劇的に変わるはずだ。

『意外に聞こえるかもしれませんが、ストライカーほど「合わせる」技術が求められるポジションはないのです。(中略)うまくいかないこと、壁にぶち当たることばかりです。でも、それを一つ一つ乗り越えることができたのは、「自分が変わる」ことを心掛けてきたからだと思います。自分が合わせる方が最短距離で目的地点に到達できるし、一番効率が良い。(中略)本書ではサッカーに深く入り込んでいる表現や章があります。それでも、私はサッカーをやっていない人にむしろ読んでもらいたいと感じています』(「はじめに」より)

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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