まだいる、リーグアンの若手有望選手たち ユーロ2016代表に食い込むのは誰か?

木村かや子

PSGに集う期待の若手たち

ビッグネームがそろうPSGで、左サイドバックとして堂々としたプレーを見せるクルザワ(左) 【Getty Images】

 他の若き代表候補は、このところ、大物だけでなく若い才能の確保にも力を入れているクラブ、PSGに集まっている。左サイドバック(SB)は、リュカ・ディーニュ、レイバン・クルザワの2人のどちらかが、パトリス・エブラの交代要員として招集されるはずだ。

 現在、期限付き移籍でローマに出されているディーニュは、リールにいた十代のときから将来を嘱望されていた選手で、PSGには13年に加入した。まだ22歳という若さながら、14年のワールドカップ(W杯)ブラジル大会でプレーした経験を持つ分、おそらくクルザワより一歩先んじている。

 サイドを上下するスタミナと加速力に定評があり、守備もそつない。攻撃の局面でも適切に加勢でき、正確なクロスを上げる技術力も備えたオールマイティーな選手とされるのが、ディーニュである。しかし昨年のPSGでは、名高い攻撃陣を前に遠慮が出たか、可もなく不可もないという程度の慎重なプレーしかできず。プレー時間も少なかったため、今季は期限付き移籍で出されたが、出先のローマでは、そこそこ安定したパフォーマンスを見せている。

 一方、その後釜として、PSGの左アウトサイドの交代要員となったのが、今季モナコからやってきたクルザワだ。若手の活躍でモナコがリーグ2位となった13−14シーズンに、快進撃の主役の一角となり、モナコの主力に定着。その働きを認められ、昨季にシニア代表デビューも果たした。スピードと体力を備えたエネルギッシュなSBで、強い攻撃的性向を持つ反面、ややおっちょこちょいなところもあるが、PSGに来てからの働きぶりは、ディーニュのそれよりも評価が高い。

 無我夢中になれるその性格のせいか、クルザワはPSGの中でもそう物おじせずにプレーしているように見える。何より、左サイドで中盤と連係してオーバーラップし、攻撃に加担するという、ディーニュに不足していた部分ができているのだ。リーグ戦の出場数13で4得点、1アシストはDFにとって決して悪い数字ではないだろう。昨年には、攻撃性が空回りし、突っ込みすぎて守備に穴を作ったり、敵にアシストしかかったりというポカもあったが、今季は今のところ、そのような調子の乱れもない。

 エネルギッシュなクルザワか、安定しそつないディーニュか。どちらを選ぶかは、デシャン代表監督の好みと、チームのニーズにもよるだろう。

ベラッティの陰で、成長を見せ始めたラビオ

ユーロだけではなく、W杯を見据えてラビオ(25番)を代表に押す声は少なくない 【Getty Images】

 一方、今回のユーロで呼ばれる可能性が、高からずも皆無ではないのが、PSGのボランチ、アドリアン・ラビオだ。ごく幼いときから世界のスカウトたちの目を引いてきた彼は実際、13歳にしてマンチェスター・シティに引き抜かれた経歴を持つ。この年齢での勧誘には、家族の引っ越しなど表向きの名目が必要となるため、クラブが親に仕事をオファーし、家族ごとイングランドに呼び寄せたのである。しかし英国の水が合わず、結局6カ月余りで帰国した彼は、仏協会のエリート育成機関を経て、PSGに至ることになった。

 現在21歳以下のフランス代表であるラビオは、まだ20歳という若さながら、PSGの要である3ボランチの交代要員の役を、特に今季に入り、危なげなくこなせるようになった。優れた技術を持ち、正確なパスで守備ラインと攻撃ラインをつなぐことができる。また、折りを見てミドルシュートを狙うなどの攻撃性も兼ね備える。

 デビュー当初は、スター選手たちの中で、ただミスなくプレーしようとしているといった風で、やや頼りない印象を与えたが、今季に入り状況は好転。チャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第4節のレアル・マドリー戦では、負傷したマルコ・ベラッティのあとを任され、その不在を嘆かせない働きを見せたことを機に、その評価も上がり始めた。

 話はややそれるが、リーグアンが誇る最強の若手はフランス人ではない。それは前述のイタリア人ボランチ、ベラッティだ。PSGに入団した12年、19歳で臨んだ初のCLで、度胸と飛びぬけた才を証明して見せた彼は、瞬く間にチームの要に。後方からの仕掛けのパスにおける創造力、優れた読みを伴うボール奪回能力で、フランスの観客をうならせ続けている。

 つまり、PSGでのラビオは基本的にこのベラッティの交代要員だったため、“神童”との比較でどうしても小粒に見えるという、やや不運な立場にもいた。それでも20歳という年齢を考えれば、ラビオの現在の働きぶりと着実な成長は、評価に値するだろう。現時点でA代表への招集歴はゼロだけに、ユーロ招集の確率はそう高くはないが、続く18年のW杯ロシア大会を見越し、ラビオを押す声は少なくない。3月の親善試合で試されるか否かで、その答えは見えるだろう。

 最後に。このユーロでの招集の可能性はなくても、W杯予選に向けてのポテンシャルを秘めた選手は他にもいる。例えば、今季に入り頭角を現した、マルセイユの21歳、ジョルジュ=ケビン・ヌクドゥだ。今季、ここまでのところ、全大会合わせ29試合で10ゴール、3アシストしている彼は、ドリブルによるサイド突破を得意とする左のウインガー。カメルーンに源を持つが、フランスで生まれ、フランス人としてユースレベルでも常にフランス代表とともに歩んできた選手である。現在アントワーヌ・グリーズマンが占めている代表左ウイングの交代要員が希薄なだけに、彼の中に将来的な可能性を見る者も出始めたことを、ひとこと言い添えておこう。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。2022-23シーズンから2年はモナコ、スタッド・ランスの試合を毎週現地で取材している。

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