「真のミランの10番」に近づいた本田圭佑 今季初得点にイタリア全国紙記者も太鼓判

元川悦子

チームの潤滑油になっている本田

ジェノア戦のバッカ(右端)の先制点は、本田の献身性が呼び込んだ 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 実際、ジェノア戦を見ても、本田は自分のエゴを押し出すようなプレーを全くしていなかった。強烈ミドルを沈めたシーンは確かに見る者の度肝を抜いたが、それ以外のところでは「チーム第一」のスタンスを貫き続けたのだ。

 例えば、バッカの先制点の場面。モントリーボのパスをゴールラインぎりぎりのところで粘ってキープし、絶妙のクロスを入れたのが本田だった。ムバイ・ニヤングの頭に当たってバッカがゴールしたため、アシストはつかなかったが、彼の献身性がゴールを呼び込んだのは事実だろう。

 その後、前半は右の縦関係に位置するデ・シリオとうまく絡みながら効果的な仕掛けを繰り返し、後半は右からゴール前へ流れる形が増えた。モントリーボやアンドレア・ベルトラッチも困った時には毎回のように本田にボールを預け、攻撃を組み立て直してもらっていた。こうした一挙手一投足は試合のダイジェストにも出ず、記録にも残らない。けれど、本田がチームの潤滑油になっているのは紛れもない事実である。

「黒子になってチームを支えよう」という姿勢が見て取れたもう1つのポイントがリスタート時だ。位置も影響したのだろうが、この日、試合を通してFKを蹴ったのは、本田ではなくジャコモ・ボナベントゥーラだった。

 かつて日本代表で中村俊輔に「キックを蹴らせてくれ」と強引に主張した頃とは180度異なる行動パターンには驚かされるばかりだが、本人にしてみれば「チームメートを気持ちよくさせることが、自分にとってもプラスに働く」という冷静な判断があるのだという。

「FKはね、基本的に向こう(左)サイドは代表ではヤット(遠藤保仁)さんに譲ってきたし、こっちサイドでは僕と。前の試合でも、マリオ(バロテッリ)のFKがうまいのは周知の事実で、それは僕も認めるところなんで、マリオに任せました。マリオとのやり取りでは、まずは譲ってあげる方がその後、交渉しやすいんで。次にこっちサイドがあれば、僕が蹴りたいなと思いますけど」(本田)

 それはボナベントゥーラや他の選手との間でも一緒だろう。このように仲間を尊重し、生かし生かされようとする姿をシニシャ・ミハイロビッチ監督も認めているから、指揮官は試合後の会見で「やる気と犠牲心を見せてくれている」と名指しで賛辞を贈ったのである。

本田もミランもここから巻き返せるか

ミランは現在6位。欧州リーグ、さらにチャンピオンズリーグ圏内まで順位を上げられるだろうか 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 ジェノア戦を機に、本田に対する正当な評価が増えていくという期待は少なくない。イタリア最大級の全国紙『コリエレ・デッラ・セーラ』のミラン担当、アリアンナ・ラベッリ記者もそんな流れを願う1人だ。

「私はこのジェノア戦が、本田の今季最初のベストゲームだとは思っていません。1月31日のミラノダービーも、2月3日のパレルモ戦も非常に良かった。彼は積極的に攻撃にいくだけでなく、守備面でもハードワークを惜しまず、チームのために誰よりも身を粉にして働いている。モントリーボとの連係も日に日によくなっているし、右サイドの(イグナツィオ・)アバーテ、デ・シリオともお互いにいいフィーリングを持ちながらプレーできています。

 ミハイロビッチ監督も『12月20日のフロジノーネ戦の後、もし本田がこのレベルのプレーを続けるのなら、今後もずっと使うと本人に言った』と記者会見でコメントしていましたが、そこから1カ月以上、彼はトップパフォーマンスを維持している。

 このゴールによって、本田は自分を辛らつに批判したメディアやサポーターを納得させました。今季は残り13試合ですが、ミランの目標はチャンピオンズリーグ出場権内の3位以内。本田がそのための重要な戦力になるのは間違いない。先月までは移籍話が出ていましたが、彼は来季もミランに残留するでしょう」と彼女は太鼓判を押す。

 ミランは現在、25試合を終えて勝ち点43の6位。3位・フィオレンティーナとは6ポイント差あり、巻き返しは容易ではない。しかしながら、一時はチーム構想外かと目されながら「失敗しても信じてやり続けることが大事」と自らを奮い立たせ、強靭(きょうじん)なメンタリティーで逆境を跳ね除けた本田なら、奇跡を起こせるかもしれない。

「本田のみならず、チーム全体が自信を深め、急ピッチで成長している。3カ月後にはもっと勝ち点を積み重ねているはず。欧州リーグ圏内の5位以内なら十分、手が届くでしょう。本田自身もここから得点を量産できる可能性が大いにあると思います」(ラベッリ記者)

 そうした追い風を力にして、“背番号10”にはより一層の輝きを放ってほしい。「自分は新たな環境に適応するまでにすごく時間がかかるタイプ」と前々から口癖のように話していたこの男の本領発揮は、ここからが本番だ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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