自称“人畜無害”木佐貫洋のいい人伝説 普通の感覚を忘れなかったプロ13年間
うれしいことは他人にもしてあげたい
第二の人生は巨人のスカウトとして有望選手をを発掘する 【写真は共同】
「自分が学生のころ、プロに入った先輩からの差し入れがうれしかったからです」
木佐貫の現役時代、パンチ佐藤氏(元オリックス)ら、先輩プロ選手たちがいつもハンバーガーやドーナツを差し入れしてくれた。それがとてもうれしかった。
「ひとつはプロのOBが自分たちの先輩なんだという誇らしい思い。そしてもう一つはOBが自分たちのことを気にかけていてくれる喜び。自分がうれしかったから、後輩たちにも同じことを感じてほしいと思って差し入れをしていました」
自分がしてもらってうれしいことは、他人にもしてあげたい――。サラリーマンとは比較にならないほどの年俸をもらい、華やかなプロ野球の第一線で活躍しながらも、決してアマチュア時代の感覚を忘れない。そんな木佐貫の「普通さ」を物語るエピソードだった。
包み隠さず後輩に伝えてきた悩み
「僕は自分の失敗談、悩んでいることを他人に話すことが好きなんです(笑)。というのも、先輩がそういう風に話してくれたら、その意外な一面を見ることで親近感を覚えるからです。僕自身、もともと自慢するのが好きではないので、自分の悩みを伝えて、それで一人でも何かをキャッチしてくれたらうれしいなという感覚です」
現役引退後、亜細亜大学の後輩たちが木佐貫に内緒でネクタイと寄せ書き色紙をプレゼントしたことがニュースとなった。その背景には、先輩が後輩を愛し続けた13年間の長い積み重ねがあったのだ。
プロ初戦と杉内に投げ勝った試合
「せっかく先頭の福留(孝介)さんから三振を奪ったのに、井端(弘和)さんのヒットで気がついたらノックアウトされていたプロデビュー戦。そして、日本ハムに移籍して古巣の巨人と、しかも杉内投手と投げ合って、初めて札幌ドームのお立ち台に上がった交流戦。この2試合は忘れられないですね」
有望選手を発掘する第二の人生
「こまめに足を運んで、選手を見るという大切な仕事。自分の新人時代を思い出しながら、一生懸命に頑張ります」
入団初年度に新人王を獲得。その後は巨人から、オリックス、そして北海道日本ハムと移籍して13年間のプロ生活をまっとうした。それでも、木佐貫は庶民感覚、一般常識を失うことなく、常に「普通」の感覚を忘れなかった。それは、今後のスカウト活動に大きく役立つはずだ。
「現役時代はヘンに常識的というのか、突き抜けられない自分にもどかしさを感じたこともあります。でも、それが自分の性格だし、それはそれでしょうがないと思っていました。アクが強くなく、良くも悪くも人畜無害だったのかな(笑)」
現役時代から「乗り鉄」として有名な木佐貫洋。有望選手を探すべく、全国の鉄道に乗る機会も増えることだろう。木佐貫洋の第二の人生――自らを「人畜無害」と語る彼がどんな有望選手を発掘するのか? その行く末を温かく見守っていきたい。