運営目線から見たW杯イングランド大会 学ぶべき大会運営と雰囲気作り
注目が集まるセキュリティーやテロ対策
組織委員会の活動やラグビーW杯の運営について伊達氏、宮田氏との質疑応答が行われた 【スポーツナビ】
――大成功だったイングランド大会ですが、テロ対策やセキュリティーの部分はどうだったのか?
伊達 イングランドは12年にロンドン五輪を開催しており、当然ながらテロ対策等のセキュリティーはとっていました。万全に準備はしていましたが、それを表に出して目に見えるようにするのかしないのか、というところで今回はあまり目に見えないようにすると判断されたようです。日本大会も同じです。準備は当然ながらすべてを行った上で、日本らしさを含めて人の目につくようにするのかしないのか、だと思います。
あともう一つ、イングランド大会の運営担当の方に「安全な大会で終わった立役者は誰ですか?」と聞いたら、「一番とは言えないけれど二人いる。それはファンと選手だ」と言っていました。例えば、チームバスがファンが通っている道の真ん中を通って来る時に、ファンたちが声を掛け合ってきちんとバスが通る道を作り、安全を確保してバスが通っていくなどです。私はセキュリティーの責任者ではないですが、会場運営の責任者という立場でありますので、そのような雰囲気は19年大会もやりたいなと思います。
――日本大会でのファンの移動や宿泊に問題はないのか?
伊達 日本において移動、宿泊がトラブルになることはないと思います。新幹線でも在来線でも5分遅れるとお詫びのアナウンスが入る。こんな国は世界中のいろんなところに行っていますが見たことがないです。基本的に時間通りに物事が動く国は、世界でもまれでありますので、ここは誇っていきたいところであります。逆にアピールしていきたいですね。これがわれわれの普通だと。
――宿泊に関しては、ホテルが取れないなどの問題も出てきそうだが?
伊達 選手たちは無理ですが、日本に来るファンたちは和の旅館などにたくさん泊まりたいと思うんです。そうなると、宿泊数においては地方も含めて問題ないと考えています。また、日本は移動アクセスが良い国ですから、少し横の町に行っても30や40分で戻って来れる。例えば東京から横浜なんかもそうですよね。そう考えると、ファンの皆さんの行動範囲が広がる。過去の大会から見ても、日本大会は一番選択肢があるオファーを出せるのではないかなと思っております。飛行機、新幹線、宿泊も含めてです。
イングランド大会から学べることは?
「ラグビーの精神」を守ることに高い志を持って取り組んだ姿勢を見習いたいと語った 【スポーツナビ】
宮田 私たち組織委員会の活動はラグビーというスポーツがないと成り立たないわけですから、一義的にはラグビーW杯を成功させるために努力しますが、成功させるためにはラグビーを日本で普及させることも重要です。これは当然、日本ラグビーフットボール協会が行うことではあるのですが、私たちも連携してラグビーを普及させて、ラグビーの人気を高めてチケットを買っていただく。そして、19年が終わった後のラグビーの普及のことも準備の段階から考えていかなければならないと思います。組織は分かれていますが人はクロスしておりますし、お互いの会議に出たり共同の会議を行ったり、いろいろなテーマで一緒にやっておりますので、決してばらばらにやっているということではありません。
――今回のイングランドの大会から、日本が一番見習うべきところはどこか?
伊達 すごく難しいですね。繰り返しになるかもしれませんが、私はやはりワールドラグビーが掲げているラグビーの精神ですね。そういうものをきちんと守っていたと言いますか、そこに高い志を持って取り組んだ組織委員会の姿勢というのを見習うべきだと思いました。
私の業務でチームサービスという業務があります。チームの周りのことをすべて行うというものです。その部分で見ていておもしろかったのは、「チームに対してはノーサプライズポリシー」だと言っていたことです。要するに驚かせないことです。例えば、本当だったらホテルからスタジアムまでバスでだいたい30分かかる距離だったとき、すべての信号が青で、法定速度で走れば20分で行けるというときに、「20分で行ける」とは組織委員会が言わなかったんです。「実際は30分だが、その上で何か改善できることがあれば僕らはベストを尽くす」と。その場をちょっと気持ち良くさせて、後で現実が違った、ということは絶対にやらなかった。必ずすべてをオープンに話して、チームとともに必ず一緒に解決策を考えていたんです。そのノーサプライズポリシーということは重視したいなと思いました。
あなたにとってラグビーとは?
伊達 私は、恩返しをしたいなとずっと思っていました。ラグビーは私にいろいろなものを与えてくれましたし、仲間をはじめ自分自身の自己形成も含めて、「恩返しがしたい対象」です。それに加えて、宮田さんの言葉を借りますけれど「憧れ」が出てきたなと。スポーツに携わることによって、自分の世界でも世の中でも何かを変えられるんじゃないかという欲が出てきました。19年大会で誰か一人でもそういう気持ちになれるようなものを作り上げたいな、という思いが増しています。
協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会