欧州野球界を取り巻く日本選手の現状=来春から新リーグ発足で新たな展開へ

ベースボール・タイムズ

「日本人=助っ人」としての扱い

来年から欧州大陸を横断する「ユーロ・リーグ・ベースボール」が発足し、池永氏は「NPBでバリバリ活躍して『五輪に出ました』、『WBC代表でした』というような選手に欧州に渡って活躍してもらいたい」と語る 【ベースボール・タイムズ】

 条件面とともに選手自身の実力の面でも、日本人選手には“難題”が待ち受けている。欧州のどの国内リーグよりも日本のNPBの方が行われている試合のレベルは高いことは間違いないが、選手個々の話となるとまた異なる物差しが必要となる。

 前出の池永氏は次のように解説する。

「米国人も同じですけど、ドイツ人とかオランダ人は体そのものが大きいですし、日本とは野球の質が違うという感じですね。ですから日本人がもし欧州に行く場合を考えると、パワーヒッターというのは求められていない。遠くに飛ばせるバッターは欧州にも数多くいますからね」

 そして肝心なことは、欧州において日本人は「助っ人」の立場になるということである。現在、欧州各国には、米国を始め、ベネズエラ、ドミニカ共和国などから多くの選手が流入している。基本的に試合に出場できる外国人枠は3人まで。日本人選手が試合に出るためには、まずはパワー自慢の彼らとの“助っ人枠争い”に勝たなくてはならない。

「外国人枠で誰を獲るかといった時に振るいに掛けられる。実力的にはMLBの2A、3Aレベルの中南米の選手が欧州に流れてくることが多い。彼らには肉体的なパワーはあるので、そこで争うとなると日本人には厳しいものがある。日本人の特徴を生かすなら、やっぱりピッチャーかリードオフマンタイプになると思います。ただ、前例が少ないので日本人選手に対する評価が定まっていないですし、日本のプロ野球でも2軍でやってましたぐらいではなかなか獲ってくれない。もし取ってくれても条件的には良くない。それでも野球を続けたいというならば可能性はありますが……」

求められるパイオニアの出現

 給与などの条件面を考えると、例えば若く情熱のある高卒選手などならば「夢を追う」という形で渡欧するのは大いに考えられる。だが、実力的には「助っ人」として、怪力自慢の中南米勢を押し退けるものが必要となる。そこに日本と欧州の物理的な距離以上の、大きなジレンマが生じているというのが現状だろう。

 それでも未来はある。本人の現役引退の意向によって最終的には実現しなかったが、昨年オフには元西武の星秀和にモンペリエ(フランス)から具体的な獲得オファーが届いていたという事例もある。プロ野球選手のセカンドキャリアを考えた上でも、新リーグ「ELB」が発足した欧州野球界は、一つの選択肢になるだろう。

 そのために成功例を一つ作りたい。池永氏は期待を込めて、夢を語る。

「そもそも欧州で野球をやり続けるというのは、野球が相当に好きじゃないとできない。それはファンも同じです。そういう環境の中でプレーするのは楽しいと思います。そして、僕としてはまずはNPBでバリバリ活躍して『五輪に出ました』、『WBC代表でした』というような選手に欧州に渡って活躍してもらいたい。そういうパイオニア的な選手が出てくれば、欧州における日本人選手の評価ももっと上がる。『自分がパイオニアになる!』というような気概を持った選手が出てくれば、一気に景色が広がると思います」

 今年3月に侍ジャパン対欧州代表戦が行われ、先月の第1回「世界野球プレミア12」にはオランダ、イタリアの2カ国が出場。現在、台湾で開催中のアジア・ウインター・リーグに欧州選抜チームが初参加している。すでに日本野球界には、オランダ本土出身のバンデンハーク、イタリア出身のマエストリ(オリックス)という選手も在籍している。

 課題はあるが、日本と欧州の野球界が今後、より一層近いものになることは間違いない。すでにメジャー球団は常駐スカウトを置き、新たな原石の発掘に取り組んでいる。日本の球団、ファンも欧州野球界にアンテナを張って置いて損はない。「ELB」という新リーグの発足とともに新たな日欧交流の道が開ければ、野球というスポーツはさらに豊かなものになるはずだ。

(文・三和直樹/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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