4年前と現在のバルサはどちらが上か? クラブW杯で楽しむ“異文化の衝突”

清水英斗

グアルディオラとルイス・エンリケ、異なる采配

システムより選手の個性に気を遣って采配を行うルイス・エンリケ 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 一方、ルイス・エンリケのチームは、より守備ブロックを作る意識が強い。ファーストプレスでボールを奪えないなら、無理をせずに引いて、守備ブロックを整える。そして、あえて対戦相手にサッカーをさせておき、ボールを奪ったら、MSNによるカウンターが火を噴く。グアルディオラのチームとは異なり、守備時にある程度の休憩をとり、溜めておいた高火力を、ロングカウンターで発揮するゲームプランもあった。このような攻守の仕組みは、世界有数のFWを3人そろえたメンバー構成に合致している。

 4年前との違いで、もうひとつ言及すべきは、指揮官の采配だ。

 グアルディオラの考え方は、中盤までの数的優位がベースになる。1トップを中盤に落とす“ゼロトップ”を用いたり、あるいは4年前のクラブW杯のように、“3バック”を用いてトップ下を増やしたり、また、2013−14シーズンから指揮を執るバイエルン・ミュンヘンでは、両サイドバックを中盤のサポートに入らせる“偽のサイドバック”を用いた。それもこれも、中盤でいかに数的優位を作って攻守を支配するか。そこがポイントだった。

 システム全体をいじり、試合中にもシステムを変え、意図した場所に数的優位を作り出す。最後のゴール前では数的優位を作ることが難しくなるため、選手の創造性に頼らざるを得ないが、そこに至るまでの過程では、必ず数的優位を作り、論理的で、再現性のあるビルドアップを好む。それがグアルディオラのやり方だ。

 一方、ルイス・エンリケの場合、そうやってシステム全体をいじることはなく、4−3−3で固定。並べ方よりも、選手の個性に気を遣っている。前に出る守備ばかりではなく、待ち構える守備も行うため、インサイドハーフは、シャビ&イニエスタから、ラキティッチ&イニエスタへ変化。ラキティッチは技術だけでなく、184センチと体が大きめで、球際でボールを奪い取る守備力も高い。昨シーズン、シャビを投入するときは、必ずイニエスタと交代させるなど、組み合わせのバランスを崩さないように配慮された。

戦略的な柔軟性があるとも言える現在のバルセロナ

21日のクラシコではレアル・マドリーに4−0で勝利したバルセロナ。現在の方が戦略的な柔軟性があるとも言える 【Getty Images】

 戦術的な指示も、最小限で試合にフィットさせる。4−0で勝利した21日のレアル・マドリーとの“エル・クラシコ”では、指揮官は右ウイングで起用したセルジ・ロベルトを中央へ寄せ、広大な中盤を走り回る相手のボランチ、ルカ・モドリッチとトニ・クロースの背後で、縦パスを受けさせた。セルジ・ロベルトに対峙(たいじ)したマルセロは、前方の左ウイング、クリスチャーノ・ロナウドが守備に下がらないため、スペースを空けることができない。そのため、中央へ入っていくフリーのセルジ・ロベルトを追撃しなかった。

 この駆け引きが、前半11分にセルジ・ロベルトのアシストからスアレスのゴールを生み、全体的にも試合の鍵を握ったことは間違いない。ルイス・エンリケは、大きくチームをいじったりはしないが、小さな一手で、最大限の効果をもたらした。

 このように列挙していくと、バルセロナの幹は同じとはいえ、4年前との枝葉の違いは、思った以上に大きいようだ。ゲームの完全支配を目指し、ひた走ったグアルディオラ時代に比べると、相手に対するリアクションに重きを置くルイス・エンリケのチームは、戦略的な柔軟性があるとも言える。

 それぞれ欧州を制覇した、過去と現在のバルセロナだが、どちらが優れているのかを論じるのは難しい。空想上の話をするなら、攻撃的なスターをそろえた4年前のサントスにとって、くみしやすかったのは、多少は自分たちのサッカーをさせてくれるルイス・エンリケのチームなのだろうか。

 クラブW杯の面白さは、世界の広さを感じられるところだ。深さでいえば、欧州チャンピオンズリーグが最高峰であるのは疑いようもない。しかし、世界は広い。さまざまなサッカーをするチームがある。今年も、“異文化の衝突”を楽しもう。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント