東洋大を優勝に導いた“大きな賭け” 駒大OB神屋氏が全日本大学駅伝を解説
東洋大が全日本大学駅伝を初制覇。悲願の「大学駅伝日本一」の称号を手にした 【写真は共同】
駒澤大の元エースで、現在は東京経済大陸上部コーチの神屋伸行氏に、レースのポイントや来年1月の箱根駅伝の展望を聞いた。
東洋大、前半から主導権を奪取
出雲駅伝が終わった後に、青山学院大は隙がないだろうと予想していたのですが、それを上回る東洋大のレースでした。東洋大が見事に主導権を握りましたね。先頭で(たすきを)もらうと冷静に入って、ラストスパートで突き離す、もしくはひっくり返すという。ああいう時の東洋大は強いなとあらためて感じました。以前、箱根駅伝で優勝した時もそうでしたし、こういう時は簡単には勝たせてくれないというチーム力を発揮するイメージです。
――鍵となった区間は?
指揮官の酒井(俊幸)監督は1、2、3区と(主力を)並べてきました。特に1、2区の服部勇馬・弾馬両選手の流れはかなり大きな賭けの部分があったのではないでしょうか。もし負ければ「前半に(駒を)つぎ込んだから、後半に足りなくなった」と言われかねないようなオーダーでした。それでも勝ちたいという思いで決断して、配置したのかなと思います。
――今回の東洋大のように前半に逃げ切る戦略には、どんな利点がありますか?
東洋大は今までもこういう駅伝を繰り返してきていますし、まず自分たちの得意パターンに持ち込むというのは一つの考え方だと思います。一般的なセオリーとしては、前半に主導権を握ると淡々と前で走れますが、追うチームはどうしてもオーバーペースに入らざるを得ない。今回の青山学院大もこのパターンで、最初はスッと追いついてきました。最初の数秒(の差を縮めるために)、少し飛ばしたくらいでは疲れないように見えますが、それがラストスパートに響いてきて、また離される。毎区間で5、6秒競り負け続けると、心理的に厳しくなってきます。万一、アンカーでこのパターンになると負けになるので、どこかで前に出たいというのは青山学院大にもあったと思いますが、見事に東洋大に阻まれたと。東洋大は主導権を握って前にいたことで、前半余裕を持って、後半に(ペースを)上げるという形ができました。
青山学院大も弱くはなかったが……
誤算というほどではないかもしれませんが、得意パターンを持っている東洋大の土俵で戦い続けて、青山学院大の「勢いよくいく」というイメージを作れなかったのではと思います。すべてが後手に回る感じでレースを終えたので、勝つことの難しさを知らされた感じではないでしょうか。
原(晋)監督にはやはり相当なプレッシャーがかかっていたと思います。強いとは言われても、東洋大と同様に今年は初優勝も懸かっていました。プレッシャーの中で100パーセントの力を出すのはやはり難しい。それが後手に回ると、さらに焦りのようなものがまん延するので、そこで力を発揮できなかったのではないかと思います。
――特定の区間ではなく、全体的なものが敗因?
青山学院大にも東洋大にも、小さいミスは各区間であったとは思います。ただ、一人一人がどうこうというよりも、青山学院大と東洋大が全力でぶつかり合った結果、東洋大の方が1枚上に行った、という感じですね。今回の東洋大は、今まで以上に強烈なラストスパートでした。1回抜かれてもまた抜き返したり、追いついて渡すといった、あの(チームスローガンの)「1秒をけずり出せ」とは違ったラストのしぶとさというか、懸けてくる思いが伝わってきました。ここで東洋大が各区間で5秒なり3秒なり稼いできたのが、最後の差になったと思います。青山学院大が決して弱かったわけではないのですが、ラストで離されていくイメージと離していくイメージの差が積み重なると結構大きいんです。
――故障から復帰した青山学院大の神野選手にも注目が集まりました。彼の走りはどうでしたか?
まだ体作りの段階で、本来の自分の状態ではないのかなと思いました。また、(レース中)何度か脚に視線を送ることがあったので、もしかしたらまだ多少気になっているのかなと。練習では全然気にならなくても、追い込まれてくると脚が気になったりするんですよね。先頭だったらそういうことはなかったかもしれませんが、ああいう状態になると、どうしても不安要素が出てくる。そうなると、昨年とは少し違う神野選手の状況ではないかなと思います。