香川のゴールが示す昨季との違い ポテンシャルを示したドルトムント
クロップからトゥヘルへの継承
ドルトムントはリーグ開幕2連勝と好調な滑り出しを見せている 【写真:ロイター/アフロ】
2015−16シーズンの開幕戦でドルトムントが昨季3位の強豪ボルシア・メンヘングラードバッハに4−0で快勝した。『ビルト』はさっそく盛大な見出しをつけて、彼らの再出発を祝した。
新監督のトーマス・トゥヘルは初陣での華々しい結果に『今日の結果は予想できなかった。素晴らしいパフォーマンス。すごく満足している」と喜びを素直に言葉にし、そしてすぐに前任者ユルゲン・クロップへの感謝の思いを伝えた。「クロップがここでひどい仕事をしていたら、今日こんなふうに勝つことなどできなかったんだ」とコメント。アグレッシブなプレスでボールを奪い取り、素早い攻撃で相手守備を翻弄(ほんろう)する。リーグ2連覇を果たしたころのクロップサッカーをほうふつとさせられた。
しかし、すべてが同じなわけではない。トゥヘルはクロップが作り上げたベースの上に少しずつ自分の色を出してきている。では実際にトゥヘルのサッカーはクロップのサッカーと比べてどこが変わったのだろうか。
かつてマインツでプレーしていたオイゲン・ポランスキ(現ホッフェンハイム)は「トゥヘル監督のトレーニングに付いていくにはアビ(大学入学資格)が必要だ」と言っていたが、自分からしようとする姿勢、新しいものを受け入れようとする努力をトゥヘルはいつも選手に求める。ドルトムントの監督に就任したばかりのころに、「アビは必要ないが、常に注意深くなければならない。私の選手にはオープンな姿勢が必要で、新しいアイデア、トレーニングフォーム、刺激に適応できなければならない」と話していた。トゥヘルはよりボール保持へのこだわりを持っており、そこでの判断基準はきっちりとされている。
知る人ぞ知る逸材の台頭
抜群のポジショニングと危機察知能力に加え、キープ力とパス精度の高さも備えているバイグル 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
今季ここまでのドルトムントを見ていると守備ラインから一本の縦パスで仕掛け始めることは少なく、パスをダイレクトで回しながら空いたスペースにボールを運び、そこからドリブルで前に運ぶパターンが多いように思われる。ゲームメークを担うのは今年もドイツ代表イルカイ・ギュンドアンだが、昨シーズンに比べて、格段に良い形で彼がボールを持てるようになっている。
それに大きく貢献しているのがスタメンに抜擢(ばってき)されている19歳のユリアン・バイグル。2部リーグ1860ミュンヘンから移籍してきたバイグルは、抜群のポジショニングと危機察知能力の高さで相手の攻撃の芽を摘み、キープ力とパス精度の高さで前線の選手が良い形でボールが持てる状況を作り出している。
「無名の存在」と思われる方も多いかと思われるが、実は知る人ぞ知る逸材候補だった。私も大迫勇也が1860でプレーしていた時に彼のプレーを見たことがあったが、18歳とは思えないほど、プレーに意思と意図を感じさせる選手だった。メンヘングラードバッハ戦でのパス成功率は95%をマーク。これにはチームマネージャーのミヒャエル・ツォルクも「ユリアンは本来、将来を見据えたプロジェクトだった。それだけに彼がこれほどまでに早く、このレベルに到達したことには驚いている。彼の持つパスワークと視野の広さが生かされている点も素晴らしい」と褒めていた。
そして前線ではアルメニア代表ヘンリク・ムヒタリアンがこれまでと見違えるようなパフォーマンスでゴールを量産している。ムヒタリアンはどんなプレーでも器用にこなす一方で、何もかもをやりすぎて一つひとつのプレーがぼやけるのが欠点だった。そこでトゥヘルはやるべきプレーを明確化し、いかにゴールに直結するプレーができるかをこだわらせた。彼がゴール前での仕事に集中できるようになるためには、チャンスメークのタクトを振る選手が必要だった。それが香川真司だった。後ろから運ばれてくるボールの中継点となり、前線で動き出すピエール・エメリク・オーバメヤン、マルコ・ロイス、ムヒタリアンにラストパスを供給する。そして香川はその期待に高いレベルで応えている。