キャシー・リードと弟クリスの特別な絆 日本のアイスダンスを発展させるために

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人生を助けてくれるアイスダンス

――話は変わりますが、日本のアイスダンスを取り巻く環境は正直、良いとはいえないと思います。米国と比べると何が足りないと思いますか?

 アイスダンスの知識でしょうか。アイスダンスはかなり変わりました。以前は長い手足を持った選手が有利と言われていましたが、今はメリル(・デービス)、チャーリー(・ホワイト)組のように背が高いとは言えない選手も活躍しています。身体的なものが問題だとは思いません。誰でもダンスはできますから。

 でも、アイスダンスの知識に加えて、リンクで練習する時間が確保できないことも大きいと思います。日本はリンク数もそんなに多くないですし、シングルスケーターやホッケー、一般の方のために時間が割かれていて常に予約で埋まっています。それに日本人はシングルにより興味を持っていますよね。ジャンプやスピンをやりたがっていて、それはすごく理解できるんです。日本人の体型はそういった技をするのに向いていますから。小さな障害がいくつもありますが、いつかより多くの人がアイスダンスに興味を持ってくれればと思っています。

ソチ五輪で金メダルを獲得したデービス・ホワイト組のように、現在はそれほど身長の高くないペアも活躍している 【Getty Images】

――アイスダンスにより興味を持ってもらうために、キャシーさんは具体的にどうしていこうと思っていますか?

 濱田(美栄)先生との仕事や自分の振り付けを通じて、より多くのスケーターがダンスを好きになってもらえたらと思っています。それに濱田先生はアイスダンスがとても好きなんです。見るのも好きだし、アイスダンスについて学びたいと思ってくれています。彼女はアイスダンスが日本のスケーターの振り付けやスケーティングの技術にとても役立つと考えているんです。ジャンプやスピンだけなく、ダンスの部分にも注力してくれています。シングルスケーターのそういった部分をより強化することで、人々がダンスやその個性に興味を持ち、スケートのダンスの部分にもっと注目してもらいたいと思っています。そういう意味で、彼女のようなアイスダンスが好きな先生と出会えたことは幸運だと思っています。

――キャシーさんが考えるアイスダンスの魅力とは?

 スケートを始めたとき、私はシングルの選手でした。その頃、アイスダンスはとても退屈だと思っていたんです。ただ、母はアイスダンスが好きで習っていたので、それを見ていました。それから数年たって「やってみようかな」と始めたんです。私は手足が長かったのでアイスダンスに向いているとも思っていましたが、すごく恥ずかしがりやだったので表現するのが苦手でした。でも、アイスダンスのおかげで新たな一面が開けて、人生を楽しめるようになりました。私の人生を助けてくれるものですね。

マリーナは人生の助言者

――アイスダンスに向いている資質とは何なのでしょうか?

 心から信じているのは、アイスダンスは基本的にダンスであるということです。だから誰でもできます。ダンスとは表現の一つの形で、異なる感情を表現でき、人々をひとつにして、シンプルに楽しめるものだと思っています。ですのでダンスを楽しみたい気持ちがあってやりたい人であれば、誰でも気持ちを表現できるし、ダンスができると思いますよ。私がアイスダンスを初めてやった時、ダンスについては無知でした。表現の仕方も、それぞれのダンスのことが分からなくて。でも、勉強したいと思いましたし、怖がりでシャイな自分にはすごく難しかったのですが、そんな自分を打ち破って挑戦したことが、今の私を作ってくれました。今はすごく幸せです。

キャシーはアイスダンスはシンプルに楽しめるもので、誰でも楽しめると語る 【スポーツナビ】

――さまざまなコーチに師事していましたが、彼らから学んだことを今後の仕事にどう生かしていきたいですか?

 たくさんのコーチや振付師の方に習うことができ、とてもラッキーだと思っています。スケートだけでなく、バレエダンサー、社交ダンスダンサー、ブロードウェイの振付師からも教わりました。習った内容だけでなく、どうやって教えるかはとても参考になりました。彼らの教えるときの言い方や体の動かし方を絶えず頭のどこかに覚えていて、いつか私がコーチになったとき、私の生徒にとって最高のコーチになるために、これらの経験が生かされると思います。

 また、これらの貴重な経験を積むことができたのも、木下グループの支援のおかげですし、そして、日本スケート連盟の方々の援助のおかげです。今の私があるのも、皆さんのご協力のおかげです。ですから、より一層、これからコーチとして、振付師として、またダンスのスペシャリストとして、日本のスケート界に貢献したいのです。

 教えたり、振り付けの方法は本当にさまざまです。生徒も1人ひとり違いますし、理解する方法もそれぞれです。ある人には通じる方法でも、他の人には通じないこともあります。その場合は別の方法を考えなければいけません。ですので教えるスキルについてだけでなく、どう教えて、どう声をかけけるか、どう見本を見せるかといったことは、生徒ごとに変えています。コーチングとは誰かを教えることではなく、どう生徒に理解させ、成長させるかだと思います。彼らには私がやるようにやらせようとは思っていません。彼らなりの方法で成長してほしいと思っています。

――現役最後のコーチとなったマリーナ・ズエワさんからはどういったことを学びましたか?

 マリーナからは、コーチとしてのあり方についてとても多くのことを学びました。たった1シーズンだけでしたが、コーチとして、振付師として心から尊敬しています。彼女はどんなレベルのどの選手でも平等に目をかけ、生徒の個性を見て、スケーティングだけでなく人生を気にかけてくれます。いつも私のもとに来て「問題や質問があれば言ってね」と声をかけてくれました。そういったコーチに私もなりたいと思っています。彼女はまさに人生の助言者だと思います。

現役最後のコーチとなったマリーナ・ズエワ(中央)は、人生の助言者だという 【Getty Images】

――最後にキャシーさんのファンへメッセージをお願いします。

 いつも本当に応援ありがとうございます。日本のファンの皆さんは最高です。スケーター仲間もみんな日本のファンが大好きで、私に嫉妬するんです(笑)。私は真剣にファンを私の家族だと思っています。私のブログや演技を通じて、私やクリスの人生のうれしい瞬間も悲しいことも知ってくれています。今後も応援してほしいですし、クリスと哉中のこともぜひ応援してください。彼らは今後、素晴らしい日本のアイスダンサーになるはずです。そして私たち3人は今後も、可能な限り日本のアイスダンスのために頑張っていくつもりです。

「日本のファンの皆さんは最高です」とキャシー 【スポーツナビ】

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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