書道で集中力と上半身の筋肉を鍛える 「松原渓のスポーツ百景」
書道は書を通して精神を鍛え、道を開く
今回、私が体験に行ったのは、抜刀、茶道でもお世話になった「Hisui TOKYO」。90分間の授業の中で、呼吸法や正しい筆の持ち方を身につけ、最終的に「永和九年」の四字を楷書で書くことがテーマだ。
「書道と習字の違いって何だと思いますか?」と聞かれ、私は答えに窮してしまった。この2つの明確な違いを、皆さんはご存知だろうか。
習字は読んで字のごとく「字」を習う。手本に忠実で書き順も厳格だ。一方、書道は書を通して精神を鍛え、道を開く。そのため、手本通りに書かなければいけないわけではなく、最終的には個性をいかに表現するかという域を目指す。先生の言葉を借りると「書道は空間の美を重んじるアート」。楷書や行書や草書といった書体によって筆順が変わることもあるそうだ。
重要なのは「姿勢」と「筆の持ち方」
墨の匂いが懐かしい 【松原渓】
次に、「筆の持ち方」。筆を持った腕は、手首をひじと同じぐらいの高さに保つ。リラックスしてこの高さをキープするのが理想だけれど、慣れていないと力が入ってしまうので難しい。翌日は腕がやや筋肉痛になった。書く時は手首を固定して、筆を持つ指先をコンパスの針のように動かして書く。たとえば真っすぐの縦線を書く時、どうしても腕を引いてしまいがちだけれど、腕と手首は文字の中央で固定したまま、筆を立てたり倒したりしながら書く。たしかにその書き方は見た目にも美しい。
書く時は「角度」「速度」「線質」を意識
自分の名前がうまく書けるようになりたい 【松原渓】
「角度」は、筆の走らせ方のこと。まず軽く紙の上に筆先をななめ(45度)に乗せてスタート。この始筆で勝負が決まるとも言われるそう。実際に書いてみると、「和」という文字ののぎへんの「はらい」や「九」という文字のカーブなど、角度と力の抜き方が美しさを決めるのだと実感した。
「速度」は、とめ・はねのメリハリが効いたリズム感。角度と同じで、何度も書いて身体で覚えたい。そして最終的に美しい「線質」を表現するためには、角度や速度や筆圧と同じぐらいに呼吸も重要だということが分かった。息を吸う時に書くと字が震えてしまうため、腹式呼吸の吐く息を利用して書くことで、線がぶれずに安定するそうだ。
たとえば「年」という文字を書く時、まず横線の「三」を書いてから縦の線を入れて書くとバランスよく書ける。このように、多少書き順が違っても、まずは文字のバランスの取り方をつかむことに務めた。さらに、「はね」「とめ」がうまくいかず、文字がかすれてしまった場合などは、「筆先を墨で整えて、上からなぞってもいいですよ」(先生)。もちろん、清書は正しい書き順で一度で書けるに越したことはないが、それぐらい、文字のバランスや美しさが重要なのだと実感した。
次は、全身を使った「書道パフォーマンス」?
「永・和・九・年」の四文字には基本の「はね」や「はらい」が網羅されているため、この四文字が書ければ、大体の字は書けるのだそうだ。新聞で何度も練習した後に模写をして、その後に自分で書く、というサイクルを繰り返しながら挑戦し、90分間の濃い授業が終了。基本を身体で体得するのにはまだまだ時間がかかりそうだが、次のステップとしていつかは芸術性の高い個性的な字を書いてみたいし、機会があれば全身を使った「書道パフォーマンス」にも挑戦してみたい。
何度も書いて身体で覚えたい 【松原渓】
・集中力が高まる
・姿勢が良くなる
・「とめ」「はね」「はらい」などの筆運びは硬筆(ボールペンや鉛筆など)の上達にもつながる
・奇麗な字を書くリズムが身に付く
・真心のこもった手紙を書く意欲がわく
今回学んだ基本を忘れずに、今後はメールだけでなく、積極的に手書きの手紙を送る機会を増やそうと思う。