その数3333段!日本一の石段に挑戦してみた 意識朦朧……ナメていてすみません

芸部歩人

熊本にある釈迦院御坂遊歩道

スタート地点には、らせん状に展開する頂上までの道のりを示した石板 【芸部歩人】

 舞台となるのは熊本市内の熊本交通センターからバスを乗り継ぎ90分ほどのところにある釈迦院御坂遊歩道。昭和63年(1988年)3月、10年の工事を経て、この3333段の石段が完成したのだという。

 朝食がまだだったので、シャリバテを防ぐためバスを降りてすぐ前にある食堂でおにぎりを買いスタート地点へ。標高240mという表示と、らせん状に展開する頂上までの道のりを示した石板が見られる。ドーンと天上に伸びる石段は、なんだかカンフー映画に出てきそうな風格を発している。

いざ、日本一の石段にチャレンジ! 【芸部歩人】

 速くないとはいえフルマラソン完走ぐらいの脚力は持ち合わせているし、速く登ろうなんて気もサラサラないので甘く見ていましたが、最初の踊り場=50段ぐらいでもうキツい……。無駄に背負ったパソコンと撮影機材の重さ、はたまた怠けて最近トレーニングを怠っているせいなのか、でも早々と後悔したところで先に進まないので、バテたら写真を撮って誤魔化しつつ前に進みます。

マラソンとの共通点がたくさん

階段は行けども行けども無限ループ 【芸部歩人】

 頭の中で無心に数をカウントし、あんまりシンドくなったら止まって呼吸を整えます。この日は朝10時からのスタートでしたが、すでに頂上まで行ってきたと思われる方たちが、こちらの横を軽やかな足取りで下っていきます。さわやかに挨拶を交わすさまは、登山で見られる光景と一緒です(こちらはすでにバテバテですが)。

 階段は行けども行けども無限ループのようにひたすら続きます。まだ4分の1にも達しない700段あたりではもう荒い呼吸で下しか見られず、鳥の声も川の音も耳に入ってきません。「俺をバテさせたら大したもんだ」なんて、高をくくっていて自分を呪いたい。

この辺はまだ序の口 【芸部歩人】

なんとか1000段目に到達、先はまだ長い 【芸部歩人】

 しかしシンドくてもツラくても、自分の足を進めなければゴールが近づいてこないのはマラソンと同じ。「なんでこんなのやろうとしたんだ?」と、やはりマラソンと同様に自問しながら進んでいきます。

 ただ、これもマラソンと同じで自分がどこまで進んでいるかが明確なので、1000段、そして全行程3分の1である1100段に達したりすると、少しですが元気づきます。まぁ、片足になった時体が横に振られたり、いい具合に疲弊させられているのですが。

しかし、途中ではこんな風に神々しく光が差し込む箇所もある 【芸部歩人】

 1500〜1600段あたりでは、ようやく半分まで来たと小さくガッツポーズを作りますが、やや意識朦朧(もうろう)。来る前、ネットに上がったいろんな人の体験記を読んできましたが、そこで受ける、想像した印象よりはるかにキツいです。日本一の石段、侮り難し。

2200段目での出会い

2200段目でお会いした後藤さん 【芸部歩人】

 ようやく2000段に達するともうゴールの方が近くなってきて、表示が神々しく感じられたりします。3分の2にあたる2200段目でヘバっていると、後ろから山登りのトレーニングとして週に1度登っているという後藤昭博さん(58)がやってきて、すがるように一緒に登って頂くことに。

遂に3000段目へ 【芸部歩人】

 後藤さんは昨年奥さんを病気で亡くされ、頂上まで登れば気分もいいし家でふさぎ込んでいるよりはと石段登りを始めるようになったとのこと。少し前まで桜、そしてシャクナゲと季節によって表情を変えるのもこの石段の魅力で、「お金も掛からないし」なんて話に笑っていると、さっきまでのシンドさはどこへやら。どうやらこの石段、単独行はキツいので、誰か仲間と行くのが登るためのコツみたいです。

とうとうゴールが見えてきた! 【芸部歩人】

 後藤さんとご一緒した2200段以降は、それまでなかなか減らなかった段数がウソのように着々と頂上へ近づき、都合80分ほどでようやくゴール。後藤さんは休みなく行けば40分ほどで登り切ってしまう健脚とのことですが、この日は私にペースを合わせゆっくりの登頂に。今日初めて登るまで、日本一の石段ナメていてすみません。

3333段をクリア! 頂上には石碑が建てられている 【芸部歩人】

モヤも晴れ、頂上から見る景色は絶景かな 【芸部歩人】

「登り切って食べると気持ちいいので、いつもお昼に合わせて来ています」という後藤さんとてっぺんで休憩していると、ガスが掛かっていた周囲も次第に晴れ熊本の自然が広がってくる。

頂上の休憩所にて 【芸部歩人】

行く価値もやり切る価値も十分ある

帰り道はスリップに注意しよう! 【芸部歩人】

 一休みした後帰路につき、帰りはもうキツいことないだろうと思っていたら、前日の雨で石段が濡れているのと、軟弱な脚がすっかり笑っているせいで、早々にスリップダウンして1コケ。注意が必要です。

 後藤さんによれば、自然豊かなこの辺りでは鹿やイノシシ、猿が見られることもあるのだとか。降りる頃にはお昼を回っていましたが、カップルや会社の研修と思しきグループなど、いろいろな人たちの姿が見られました。

石段を登り切って降りてきたら青空が違って見えた…… 【芸部歩人】

「休憩しないで速く駆け上がったり、あんまり無理してやっても続かないし、やっぱり続けないと意味がないですから」と後藤さん。普段は三浦雄一郎さんを見習い、足に1〜2kgの重りをつけて歩いたりしているとのことで、思いがけずお声掛けした鉄人のおかげで、無事日本一の石段チャレンジを終えることができました。

 キツいけど、行く価値もやり切る価値も十分あると思われたこの挑戦。仲間を誘い、ツアー、パーティーを組んでアタックするのがよさそうです。
 また、6月20日(土)には、この階段を駆け上がる一斉スタートのタイムレース「Red Bull 白龍走」が初開催。我こそは!と思う鉄人、健脚自慢はぜひ参加してみてはいかがでしょうか?

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著者プロフィール

げいぶ・あると。体験系取材を中心に活動し、「2代目スポーツ冒険家」を自称する40代目前ライター。名前は映画『クリフハンガー』の主人公ゲイブ・ウォーカーから

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