チェルシーが優勝へカウントダウンを開始 名将対決で見せたモウリーニョの実利主義

山中忍

圧巻の守備でチャンスを与えず

アーセナル戦でもモウリーニョが絶賛したテリー(左)を中心に圧巻の守備を見せ、チャンスを与えなかった 【Getty Images】

 続くアーセナル戦では、アザール、オスカル、ウィリアンが3トップを構成した。コスタとロイク・レミーが故障中だったとはいえ、試合前の会見で敵チームを率いるベンゲルに「守るのは楽なこと」と言われた一戦に、ディディエ・ドログバをベンチに置いて「ゼロトップ」で臨むあたりはモウリーニョらしい。

 結果は、得点力ダウン中のアウェーゲームで、リーグ戦8連勝中だった相手から上々の1ポイント獲得だった。ビッグゲーム後には「対策にみっちり時間を割いたから」というチェルシー選手のコメントが定番だが、この日も徹底的な守備ドリルの成果が見て取れた。モウリーニョ自ら「一緒に戦ってきた通算6年間で最高の出来」と絶賛したCBテリーを中心に、単に頭数がそろっているだけではなく、各自がいるべき位置でやるべき仕事をこなし続けた守備の固さは圧巻。リーグ後半戦で計9得点と乗っていたオリビエ・ジルーにまともなチャンスは与えず、最も怖いアレクシス・サンチェスは素早く2、3名で取り囲んだ。包囲網を突破されたと言えるのは、左サイドをえぐったナチョ・モンレアルに、ダニー・ウェルベックが合わせ損なったクロスを放たれた後半アディショナルタイムの1場面ぐらいだ。

 その一方で、チェルシーは両軍を通じて最大のチャンスを作り出してもいた。前半38分、ウィリアンのスルーパスに走り込んだ選手が、咄嗟のシュートが得意とは言えないラミレスではなく、アザールかオスカルであれば虎の子の1点が生まれていただろう。その20分ほど前には、判定に恵まれなかったが、先制のPKを得て、残る80分間近くをGK退場で10人の敵を相手に戦えるはずの分岐点が訪れてもいた。セスクがライン裏に届けたロングパスに反応したオスカルは、ボールには触れられなかったダビド・オスピナに倒されていた。ポゼッションは4対6でアーセナルが上回っても、内容と結果の双方でチェルシーには勝利にも等しい引分けだった。

5年ぶりのリーグ優勝まであと2勝

残り5試合で上位陣との対戦はリバプールのみ。「モウリーニョのチェルシー」が優勝へのカウントダウンを開始した 【Getty Images】

 試合終了直後のエミレーツ・スタジアム(アーセナルの本拠地)には、チェルシーのサッカーを「ボーリング(つまらない)」とやじるホーム観衆の声がこだました。しかし、そのチェルシーでは、キャプテンのテリーがピッチ上で飛び跳ねて狙い通りの零封を喜び、「後ろ向き」ではなく「戦術寄り」なプランを授けた指揮官が、「リーグ優勝から10年も遠ざかる方がつまらない」と会見場で反論した。スタンドのVIP席では、珍しくアウェーゲームに足を運んだアブラモビッチが、表面的には劣勢でも効果的な優勝への前進に、ホームで行われた前週のマンチェスター・ユナイテッド戦終了時と同様の笑顔を浮かべていたことだろう。

 5年ぶりのリーグ優勝まであと2勝。残る5試合はリバプールが唯一の強敵だ。そのリバプールにも、既に優勝を飾っているリーグカップでの対戦を含めて2勝1分けと勝ち越している。マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルから奪うべくしてポイントを奪い、「モウリーニョのチェルシー」が優勝へのカウントダウンを開始した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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