バック転は1日でマスターできるのか? 未経験の女性記者が体を張って検証

井上こん

取材前にジムで自主トレーニングに励む

(左)少しでも筋力アップになれば、と人生初のマシンに挑戦/(右)柔軟性に自信があるといっても“昔取った杵柄”では不安なため、バランスボールでブリッジの訓練も 【写真:千葉こころ】

「バック転は逆さになった体を両手で支えます。腕立て伏せや腹筋を各10回以上、また逆立ちやブリッジ、スクワットジャンプも無理せず行っておきましょう」(秋本先生)

 3歳から10数年バレエに打ち込んだ筆者。その名残で柔軟性はそこそこあるが、懸念すべきは筋力である。悲しいかな、フリーライターという立場上、もしものことがあっても労災は下りないため自分の身は自分で守らねばならない。そこで取材までの2週間、先生からの宿題に加え、ジムで自主トレーニングに励むことに……。

ゴリッ!ブチッ! 柔軟性チェックで早くも悲鳴

(左)バック転では背中の柔軟性が重要となるため、バランスボースで勢いをつけながら背中をしならせる/(右)肩回りも同様に。これが見た目よりかなりきつい! 【写真:千葉こころ】

 そして、取材当日。柔軟性のチェックも兼ねて、まずはストレッチから開始。

【写真:千葉こころ】

(左)平仮名の「し」のようなポーズ。『エクソシスト』よろしく、体が折りたたまれるような感覚に思わず悲鳴が飛び出る/(右)その後我慢できず、ひざが折れる 【写真:千葉こころ】

「うん、柔らかいですね。いいものを持ってる!」という言葉に張り切る筆者だが、次第に濃厚な内容へエスカレートする。

(左)開脚で股関節回りをほぐしたり/(右)先生に足を持ち上げられた瞬間、どこかの筋繊維がプチッと音を立てた 【写真:千葉こころ】

【写真:千葉こころ】

【写真:千葉こころ】

 さあ、ストレッチもいよいよ仕上げ。首の後ろと手首を念入りにストレッチ。「全体重を手首で支えますからね。手のつき方を間違えると大ケガにつながります」
 続いてセカンドステージ「マット運動」へ。

サポート万全の「宇宙遊泳」でバック転を体感

(左)タモリの『生まれたての子馬』状態から腹筋を意識して勢いよく蹴り上げるが…/(右)どうも腰が反ってしまう。本来は鉛筆のようにまっすぐでなければならない 【写真:千葉こころ】

 ここからは、上腕の筋肉がまぶしい仙田先生にも加わっていただく。まず、倒立の基本姿勢を正しくマスターし、腕で体を支える感覚を覚える。

(左)これが「宇宙遊泳」(つばさ基地用語)/(右)先生のサポートのおかげで恐怖感はまったくない! 【写真:千葉こころ】

 簡単なように見え、実は全体重が手首に負担となってのしかかる倒立姿勢。10回も繰り返すと手首にはどうしようもない疲労感がまとわりつく。バック転は倒立姿勢から手首の力を使って床を跳ね返さないといけないわけだが……。大丈夫か、私の手首よ!

 このほか、前転や後転、側転で回転する感覚も体に覚えさせ、いよいよバック転“体験”へ。

これはNG例。腰が折れ曲がっている 【写真:千葉こころ】

「結構できない人が多いんですが、バレエ経験者なだけあって足先がしっかり伸びてていいですね! ただ、気を抜くと先ほどの倒立のようにお腹が折れてしまってます。もっと腹筋を意識して!」

ジャンプ力に難あり、絶望的な雰囲気が漂う……

(左)勢いをつけて……/(右)「シュワッ!」 【写真:千葉こころ】

 ズシンズシンとのしかかる体重を支え続けた手首が、いよいよしびれてきたころ。「ジャンプ力も見ておきましょう。後ろにあるマットの山へ向かって、思い切り跳んでください」

(左)「ボフッ!」/(右)一同「……」 【写真:千葉こころ】

【写真:千葉こころ】

 自分でも知らなかったが、ジャンプ力が絶望的にないらしい。声を失う先生お二方。ジャンプ力がない、すなわち高さがないと、バック転の際にきれいな弧が描けず、ケガにつながる恐れがあるそうだ。

「どうする? これじゃバック転危ないよね」
「はい……」
 みるみるうちに両先生の表情が曇る。

(左)「ポスッ」。尻が跳んだ!/(右)「はい、(ぎりぎり)OKです!」 【写真:千葉こころ】

 このままではまずい。跳べ、何が何でも跳べ、私の尻! と、渾身の力で跳んだ最終回。

いよいよ夢のバック転に挑戦!

(左)膝をグッと折り曲げ……/(右)「バビュッ!」 【写真:千葉こころ】

 ついに挑戦のとき。先ほどの「宇宙遊泳」では、ただ体を預けるだけで良かったが、今回は補助付きながらも自分の足で踏み切って跳び上がる本物のバック転だ。

【写真:千葉こころ】

(左)最初はまだ注意事項を覚えてるのだが/(右)このときには頭が真っ白。体に感覚が染みついていないとつい考え過ぎてしまう 【写真:千葉こころ】

「イチ、ニイ……」のかけ声の段階では、“手は真っ直ぐ顔の横に、お腹が曲がらないように」「思い切りジャンプして」など、習ったばかりの注意事項がグルグルと頭の中を駆け巡るが、いざ「サン!」の声とともに跳び上がるとともに、そういうものがすっ飛んでしまうから困ったものだ。

【写真:千葉こころ】

 幸いなことに多くの人が挫折しがちだという後方跳びに対する恐怖感は生まれることはなかったのだが、それよりも手首が悲鳴を上げている! 

【写真:千葉こころ】

 疲労困憊の筆者。数をこなすほどにせっかく習ったフォームまで乱れ始める。見かねた先生から「安全のために」とストップがかけられ、本日の体験は終了となった。

「ね、バック転って難しいでしょう? 筋力、ジャンプ力、柔軟性すべてがそろって初めてバック転の入口に立てるんです」
 淡い期待も虚しく、まれにいる「100人に1人」にはなれなかった筆者だが、未経験のスタートから1時間で補助付きバック転まで進めたことで「自分にもいつか」という確かな希望が生まれた。このワクワク感にはまる大人が続出するのも納得である。

(取材協力:アクション&アクロバットスタジオ つばさ基地、撮影:千葉こころ)

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著者プロフィール

1986年生まれのフリーライター。グルメ記事のほか、深海生物の食レポやドヤ街宿泊レポ、ローション運動会レポなど体当たり系を得意とする。Pouch、日刊SPA!、女子SPA!、マイナビなどのWEBメディアを中心に執筆。雑誌『散歩の達人』では飲食店の取材を担当。

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