キューバで見えたグリエル騒動の背景 日本球界が理解すべき彼らの考え方
社会主義国・キューバの感覚
昨季は6月にDeNA入りし、11本塁打を放つなどファンに鮮烈な印象を残したが、1年足らずで日本球界を去ったグリエル 【写真は共同】
日本で治療し、年俸だけもらって、来年メジャーに移籍すればいいではないか? ある週刊誌の記者と話をしていて、そうした指摘を受けた。もっともだと思うが、これは日本人的発想だ。国際問題を読み解くには、相手の発想に立って考える必要がある。
キューバを歩いていて感じたのは、「儲(もう)ける」という発想が日本人とは決定的に異なることだ。
たとえば、現地の土産物屋ではTシャツが1枚約1500円で売られていた。「3枚買うから3000円にしてほしい」と言うと、「1枚1500円なのだから、3枚なら4500円ではないか」と値引き交渉の余地がないのだ。
日本人的発想で言うと、値引きしても売り上げを立てて、利益を出したほうがいいと考えるのが一般的だ。だが、キューバ人にとっては1枚1500円できっちり売らなければならない。なぜなら、それがルールであり、さらに言えば、売り上げを立てても彼らが手にする給料は変わらないからだ。
キューバの野球選手とミュージシャンは、政府から良質な自動車と家、近年普及しだした携帯電話を与えられるという。グリエルはすでに欲しいものは手にしており、たとえ外貨を稼いでも、物資不足のキューバでは使い道が少ないのだ。
環境的要因を挙げると、キューバの医療は世界最高峰と言われている。グリエルは現地でけがを治し、その後、来日したかったのだろう。
昨年、かたくなに日本食を拒否したように、自ら異文化に溶け込もうとするタイプではない。どうせ野球をプレーできないなら、過ごしやすいキューバにいたいと考えたのではないだろうか。
今回の騒動で失ったものと得たもの
これは筆者の推測だが、右太ももを負傷していなかった場合、グリエルは来日していたと思う。そして米国との国交回復がなされ、来年、メジャー移籍と算段していたのではないか。しかしけがによって事情が変わり、今年、日本でプレーすることはやめた。来年、万全の状態でメジャーに行ったほうがいい。そう考えると、筋が通るのだ。
ひとつ残念なのは、ともに来日するはずだった弟、ルルデス・グリエルJrは兄に劣らないほどの好選手だということだ。日本では「セットで獲得」と言われ、ハンバーガーについてくるポテトのように見られているものの、現地では5ツールプレーヤーと評価されている。ルルデス本人は「キューバで磨いてきたことがどれだけ日本で通用するか、楽しみにしている」と話していた。「日本食は勘弁してほしい」と苦笑していたが、日本球界の映像を取り寄せ、兄からも情報を得ていたという。
現地3/13キューバ国内リーグ、ライト前ヒットを放つルルデス・グリエルJr
(撮影:中島大輔)
「わがまま」で終わらせてはいけないグリエル騒動
今後、米国とキューバが国交正常化すれば、グリエル級の一流選手はほとんどがメジャーに行くと見て間違いない。ただし、キューバには優秀な選手が数多くおり、米国球界でプレーしている選手よりリーズナブルな年俸で獲得できる。今後も、多くのキューバ人選手が日本にやって来るだろう。
今回のグリエル騒動をどう読み解くか。「わがまま」で終わらせるのではなく、教訓を得ることが重要だ。