セブンズ日本代表「奇跡の残留」なるか “崖っぷち”で挑む香港、東京大会

斉藤健仁

「状況に応じてディフェンスを使い分けたい」

ディフェンスを指導する瀬川HC(左)とランドルコーチ 【斉藤健仁】

 この状況を打破するため、瀬川HCは2月から3月にかけて行われた3回にわたる国内合宿(セブンズシニアアカデミー)でディフェンスの整備に務めた。「香港、東京大会に向けて、昨年のアジア競技大会まで使っていた前に出るディフェンスを準備しています。1試合に5〜6回しか使える場面はないと思いますが、状況に応じて流れるディフェンスと使い分けたい」(瀬川HC)

 相手に外までボールを回させない、そして判断する時間、スペースを与えない前に出るディフェンスで、失点を抑え、あわよくばターンオーバーを増やし得点につなげたい。いずれにせよ、アメリカ大会では、ポルトガル代表に2点差(19対21)、アルゼンチン代表に3点差(12対15)で惜敗していたため、失点を抑えれば、自然と白星が見えてくるはず。「トップ5とは実力差はありますが、それ以外は毎回順位が入れ替わっている」(瀬川HC)

トライ王の山下楽平もデビューへ

トップリーグで新人王とトライ王に輝いた山下楽平もチームに加わった 【斉藤健仁】

 また攻撃面ではやっとタレントがそろった。個の力が出やすい7人制では頼もしい限りだ。2月のアメリカ大会で7トライを挙げて、大会のトライ王に輝いたエースのレメキは健在。元15人制オーストラリア代表のヒーナンは空中戦の強さと突破力は折り紙付きだ。最年少の大学2年生のスピードスター松井は上り調子で、合谷も柔らかい動きで相手を翻弄(ほんろう)する。香港大会で、トップリーグのトライ王である嗅覚に長けたWTB山下楽平(神戸製鋼)はWSデビューを迎え、ユーティリティーで経験豊富なトゥキリは3月に日本国籍を取得し「トゥキリ ロテ ダウラアコ」となって、今季のWS初出場となる(藤田は3月23日までニュージーランドに留学をしていたため、香港大会は欠場)。

 瀬川HCの言葉を借りれば、個人でディフェンスに「ひずみを作る」選手が増えたために、相手にとっては脅威となろう。「今までは強いチームにも強く戦おうとやり過ぎていいました。またラインを広く取って攻めていましたが単調になっていた。ボールをスペースに運びながら、小刻みにパスをつないで、その上でキャラクターを生かしたプレーをチームとして構築したい。そうすればチャンスはある」と指揮官は自信を深めている。

追い込まれた日本代表の底力に期待

昨年の東京セブンズではジェイミー・ヘンリーの素晴らしいトライなどで会場を沸かせた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 セブンズがオリンピック種目になっても、強化が思うように進まず、「以前と同じでは……」とラグビーファンはやきもきしているはずだ。もちろん、まだ日本ラグビーの構造的な問題は解決されてはいない(WS終了後にオリンピック予選のスコッドが発表される予定)。ただ香港セブンズに向けて約1カ月間と、過去6大会の中では一番、準備に時間を割いた。直前にはアジアのライバル香港代表とも合同合宿を行い、実戦経験も重ねた。十分な準備とタレントがそろった香港と東京で、日本ラグビーの底力を見せてほしい。

 まず3月27日から始まる香港セブンズでは、日本代表は予選プールで、フランス代表、南アフリカ代表、アルゼンチン代表と同組になった。「フランス代表とアルゼンチン代表は、アタック力はありますがディフェンスはあまり良くない。日本代表がボールをたくさん持つ展開に持ち込みたい。また南アフリカ代表はブレイクダウンで負けないように、身体を当てていきたい」(瀬川HC)と意気込んでいる。
 
「Anything can happen(どんなことでも起こり得る)」とは以前からセブンズでは言われてきた言葉だ。追い込まれた男子セブンズ日本代表が香港でそれを実現し、奇跡への第一歩を踏み出すことができるか。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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