「組織の成功は苦しまないと生まれない」 バスケ長谷川HCに聞く若手育成<後編>

小永吉陽子

議論の場を作ることが第一

「日本のバスケの形を議論して、下の世代につなげていくことがベスト」だと語る長谷川HC 【スポーツナビ】

――中国や韓国などは代表とアンダーカテゴリーが同じスタイルでプレーしていますが、日本の場合は代表がやっているスタイルが育成年代から一貫したものにはなっていません。この状況をどのように考えていますか?

 これまでの日本代表は、「日本としてどう戦うのか」の検証が十分ではなかったから、一貫したものがなく、カテゴリーごとの強化だけになっていました。今後は検証したものを表に出していくことが必要になってきます。

 ただ私が思うのは、私が代表を預かっているからといって、すぐに上から下までの一貫した指導を作るとなると、それは違うと思っています。「私の代表のやり方がこうだから、下の世代もこれをやりなさい」となると、周りに違和感が出てきます。私が1、2年代表で監督をして、海外で通用したことと課題の部分を明確にして、成功と不成功の具体例を示して、日本のバスケの形を議論していってから、下の世代につなげていくことがベストだと感じています。

 一貫した指導を作る上で間違えてはいけないのが、上の世代で必要なことを身につけるためには、若いうちから全部ができるように指導しなければならない、という考えは間違っているということ。若い時は到達目標の50パーセントしかできなくてもいいし、成功しなくてもやむを得ません。

 ただ、トライはさせておかなければならない。成功のイメージを持って練習するだけでもだいぶ違う。選手の成長は、U−16、U−18、ユニバといったカテゴリーの中で完結するのではなく、大人になっても続いていくものです。そうした見極めをこれまではブツ切れでやっていました。

 今回ユニバ代表の指導でハードにプレーすることやハードコンタクトを要求しましたが、アンダーカテゴリーにもこのことを落とし込んでいかなくてはなりません。当然、アンダーカテゴリーでも指導しているはずですが、代表でもそういう認識だと知ったら、もっと下からやらなければ、となるはずです。そのためには、それぞれのカテゴリーで指導しているコーチたちとの勉強と議論の場を作ることが第一です。そしてそれは早急にやらなければなりません。

発掘、普及、強化の連動が必要

昨年のアジア大会では銅メダルを獲得した男子日本代表。再び、アジアでの地位を高めるためにも、日本バスケ界としての強化が必須である 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

――日本の男子バスケが低迷している理由は、大会ごとに検証もないままにヘッドコーチを変え、強化体制を一新してしまうこと。やってきたことの継承がないので、ヘッドコーチによってやることが変わってしまうのが、発展しない理由ではないでしょうか?

 これまでは強化に関する継続的な取り組みが不足していたのだと思います。ここからは、これは良かったけれどこれは悪かった、という検証したものは残しておかなければなりません。チームとは組織であり、組織の成功は悩んで苦しんで議論を交わしたものからしか生まれません。本質を見抜くまでのプロセスでどれだけ苦労したかだと思います。代表を育てていく上で空中分解するか、我慢して続けられるか。そこは粘り強くやっていきたい。

――では、育成年代を強化していくためには、代表強化の中ではどのようなアイディアがありますか?

 たとえば、韓国のように競技人口が少ない場合は、中学、高校、大学、プロとふるいにかけながらエリート教育をしているので1本の強化になるんです。でも競技人口が多い日本の場合は、まずは、よりいい選手を発掘しようと、「発掘、普及」の事業でエンデバーやジュニアエリートアカデミーをやっています。日本にとってはそれも必要なんです。そして最後に「強化」の順番になる。今までは発掘、普及、強化を別々にやってきたので、そこの連動についても議論する時期に来ていると感じています。

 やり方としては、もっとさまざまな年代が重なるように強化合宿を組んだり、ゲームをしたりしないと成長が望めないでしょう。若い世代だけで練習をしても伸び率は少ないです。数日間でもいいから、高校生と大学生の強化合宿が重なるようにすることや、ナショナルチームに若手を入れて一緒に練習をするのもいいでしょう。これは私自身が実際にやりたいことでもあります。

 そして根幹の強化は、高校生も大学生もトップリーグも、すべては「自チームの強化」がいちばん大切だと思うのです。今の日本は一貫指導の体制を作る前に、自チームの練習で競い合いが足りないように思います。そして、高校生と大学生が対戦したり、大学生はNBLやbjと対戦する機会を作り、上と下が身体を合わせて対戦をすることで、「上のカテゴリーにいけば、こんなに強度が上がるんだ」ということを下の世代が肌で感じることができる。だからこそ、今後はトップリーグが1つになり、日常から競える環境が必要なのだと強く言いたいです。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント