日本を変えるハリルホジッチのこだわり もたらす勝負強さとわずかな不安

河治良幸

データを駆使した分析に定評

リール時代は、CL予備予選で中田英寿を擁するパルマを破り、本戦出場に導いた 【写真:ロイター/アフロ】

 東欧出身の監督の例に漏れずボールテクニックの高さを重視するが、シチュエーションに合わせたハードワークができなければ、攻守にわたる組織力をベースとしたハリルホジッチの戦い方は実現できない。メンタル面では勝利のために献身できることが代表に定着していく条件になる。これまで率いたチームでは中盤は万能性、前線は打開力や決定力など、個の力を持つ選手で構成する傾向が強かった。

 W杯予選の段階では選手を試しながら突破を目指すことになるが、その中でジョーカー的な役割を担う選手も出てくる。レギュラーとサブをはっきり固定するタイプではないが、試合の状況に応じた的確な選手交替もブラジルW杯などでハリルホジッチが示してきたものだ。

 何よりも勝利が大事だと主張するハリルホジッチは戦術面でクオリティーを突き詰め、データを駆使した分析も取り入れる。ボールポゼッションはもちろん、その試合でパスが何本つながったのか、平均で何タッチしているのか、そしてチャンスの時にゴール前に何人が侵入しているのかなどだ。今季からJリーグに導入されたトラッキングシステムにも注目するはずで、走行距離やスプリント回数が選手選考の参考データになってくるかもしれない。

 ただ、あくまでデータは目安であり、大事なのは目的にそったプレーの質を伴っているかどうかだ。“考えながら走る”サッカーはイビチャ・オシム元監督にも通じるものがあり、さらに対戦相手の研究をかけ合わせて試合ごとに目指すべきパフォーマンスを設定する。

 戦術的にはリアリストの色が強いが、どんな相手でどんなシチュエーションであろうと勝利にこだわり、敗れればブラジルW杯のドイツ戦のように人目をはばからず涙を見せることもある。勝利にはどこまでも貪欲で、最後まで勝負を諦めない。ハリルホジッチの勝利にこだわる意識は、普段から勝利を目指して戦っているはずの選手たちにとっても刺激になるはずだ。

世界で勝てるチーム作りに期待

 戦術家であり情熱家でもあるハリルホジッチは「プレッシャーが本当に大好きだ」と語る通り、相手が強力であるほど、舞台が大きくなるほどやりがいを感じて真価を発揮するメンタリティーがある。大事な試合で勝負弱さを露呈しがちな日本代表にも好影響を与える部分だろう。

 不安材料は過去にクラブや代表の上層部と何度も衝突してきたこと。コートジボワール代表では、確かに解任の直接の理由はアフリカ・ネーションズカップのタイトルを逃したことだが、その前から協会との対立があったと伝えられ、アルジェリア代表でも大会前に協会との確執がうわさされた。さらにブラジルW杯後に契約したトルコのトラブゾンスポルでは半年も待たずに双方合意の契約解除にいたっている。

 ただ、そうした問題もハリルホジッチの側に立てば、契約時の約束と話が違っていた場合の言い分や強化方針の主張をしているにすぎないのだろう。彼の実直だが信念を曲げない性格は、霜田技術委員長など協会関係者も承知しているはずだが、国際Aマッチデーの大半がアジア予選で埋まる事情は新監督にしっかり説明しておく必要がある。

 その上で限られたスペースをどういったマッチメークで埋めていくのか。合宿日程の確保やアウェー遠征も含めて、できる限りサポートし、想定される問題は早い段階で打ち明けて相談することが必要だろう。ハリルホジッチが現在の日本代表を率いるのに理想的な監督だとしても、アジア予選やロシアW杯での成功が約束されているわけではない。

 しかし、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレと継承されてきたチームに欠けていた勝負強さを植え付け、戦う集団に育て上げてくれるはずだ。「世界で日本が戦うための武器を増やしてくれるのではないか」と霜田委員長。そうした世界で勝てるチームを作る流れの中で、“ハリルホジッチの申し子”的な選手が出てくることにも期待したい。

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著者プロフィール

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意と しており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

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