「レースで優勝」への低評価に疑問 世界陸上マラソン代表選考

加藤康博

統一した基準を提示すべき

前半からトップに遅れを取らず積極性を見せた重友が代表に選ばれた 【写真は共同】

 対して代表入りした重友はペースメーカーのいない大阪で最初の5キロこそ17分05秒の入りだったが、抜け出したタチアナ・ガメラ(ウクライナ)を追い、20キロまで5キロ毎のラップ16分台を刻み、22キロ付近まで先頭争いを行った。その後ペースダウンしたが、そのレース内容に「世界と戦う意志を感じた」と評価された。

 田中のタイムは2時間26分57秒、重友は2時間26分39秒。その差はわずかだが、レース内容で重友が勝ったという判断だ。

 今回、日本陸連は選考内容の説明に際し、「世界で戦えること」と何度も強調した。ナショナルチーム発足後、設定タイムとして2時間22分30秒(男子は2時間6分30秒)を掲げて目標としてきたが、今回の選考ではそこに向かう姿勢を判断材料にしたという。

 条件の異なる複数のレースから3人の代表を選ばなければならない現状では、すべての人が納得する選考が難しいことは理解できる。しかし「選考レースで優勝」という事実への評価が低い今回の結果には疑問を感じざるを得ない。また出場する選手のレベルを問うのであれば、早い段階ですべての大会の招待選手を発表しておく必要があるだろうし(これは現実的に難しい)、レース内容を問うのであれば、ペースメーカーの有無やペース設定も各大会主催者に任せるのではなく、日本陸連が統一した基準を提示すべきだろう。

前半から攻めないと代表は難しい?

昨年発足したナショナルチームに選ばれている今井(左)と前田。世界選手権ではその真価が問われる 【スポーツナビ】

 過去にも選考レースで優勝しながら世界大会の代表になれないケースはあった。1992年バルセロナ五輪の女子代表選考である。

 この時は山下佐知子(当時京セラ)が前年夏の世界選手権銀メダルで内定。残り2枠を争った。選考レースとなった国内大会4レースのうち3大会で日本人が優勝したが、大阪国際で優勝した小鴨由水(当時ダイハツ)と同2位の松野明美(当時ニコニコドー)が従来の日本最高を更新し、記録的にも抜き出ていた。しかし、最終的には有森裕子(当時リクルート)が世界選手権4位という実績と暑さへの適応能力を示していたことにより、松野を抑えて最後の枠を獲得したのである。

 しかし、今回の選考レースで優勝を果たしたのは田中ひとり。記録も代表を争う選手同士で近いものがあり、当時と状況は異なる。
「国内で勝つことよりも、世界で戦うことを意識してもらうことも大事だと思っている。常に前の方でレースをしないと優勝やメダルは厳しい」と酒井副委員長は話す。この言葉は今後、結果以上に前半から攻めのレースをしないことには代表の座が難しいというメッセージと取ることもできる。しかし調整やレース運びなど、勝利のための経験は勝利することでしか得られないという事実もあるはずだ。

 いずれにせよ代表は決まった。ナショナルチーム発足後、初の世界規模の大会だ。男女とも8位以内で日本人トップならば16年のリオデジャネイロ五輪の代表に内定する。8月の北京では酷暑の中でのレースが予想されるが、そこに向けて今後、ナショナルチームとしてのサポートも重要になるだろう。その真価が今後、問われることになる。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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