- スポーツナビ
- 2015年3月10日(火) 11:00

錦織圭(日清食品)の躍進で日本が沸く昨今、一人の日本人テニスプレーヤーにも注目が集まっている。その男には、4大大会で史上最多17回の優勝を誇るロジャー・フェデラー(スイス)が尊敬の念を表明する。国枝慎吾(ユニクロ)――彼は車いすテニス界で8年以上、世界ランク1位を守り続けている絶対王者だ。
昨シーズンは4度目となる年間グランドスラムを達成し、1月の全豪オープンでは単複3連覇、8度目の優勝を飾るなど、さん然と輝くトップテニスプレーヤーである。
今回、世界の第一線を走り続ける国枝に独占インタビューし、メンタリティーの強さに迫った。
優勝の味がモチベーションにつながる

――今季は全豪オープンで3連覇を達成し、幸先の良いスタートになったと思うのですが?
年末年始に行った沖縄合宿の練習の成果が全豪で出せたということで、結果はもちろん、内容にも満足しています。1年の最初のグランドスラムで優勝ができ、今後のスケジュールも立てやすくなりました。その意味では、1年の中でも最重要と言っていい大会だったので、優勝できてうれしかったです。
――全豪オープンは3連覇だけでなく8度目の優勝でしたが、トップで走り続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか?
初めて世界ランク1位になったのは2006年です。それまでは1位の選手に勝つために練習に取り組んでいたので、1位になった後は上の背中が見えなくなり、ちょっとスランプに陥ったこともあります。しかし、試合に出ていく中で、まだまだ自分のミスがあったり、苦手なコースがあったり、ランキング1位ですが、自分のやるべきことに気づくことができました。
それからは「対誰か」でやるのではなくて「対自分」で取り組むようになりました。あれから8年が経ちますが、まだまだやるべきことが残っているので、モチベーションを失うことはまず無いです。
あと、グランドスラムでの勝利の味を何度も経験して、何回優勝しても初めて優勝したように感動できます。こんな経験をまたしたいと思えることがモチベーションにつながっていると思います。
――自分の足りないものへの気付きは自然と湧いてくるのですか?
根底には誰にも負けたくないという気持ちがすごくあります。もし現状維持で満足していたら、周りも強くなっているので、「いつかやられてしまうぞ」という危機感がそうさせているのかもしれませんね。
パラリンピックは僕の転機

――世界トップの重圧は年々増していると思いますが、プレッシャーとの上手な付き合い方はありますか?
プレッシャーが掛かれば掛かるほど、それを乗り越えたときの感動が大きいことを知っているからうまく付き合えているのでしょうね。そのためだったら、どんなにつらい練習でもこなせますよ。
――プレッシャーを乗り越えて得られた達成感で思い出深い大会は?
勝って泣いた大会はパラリンピック3大会のすべてなので、どの大会というわけではなく、全部印象深いです。
振り返ると、パラリンピックはすべて、僕の転機にもなっています。最初のアテネは当時、経済的負担が大きかったので「もうこれで最後にしよう」と思って(臨みました)。北京の時は、これで勝てばプロに転向してやろうという野望がありました。ロンドンの時は(直前に手術した)右肘との戦いもあったし、自分自身も今まで築いてきた地位もありました。プロとしてやってきた4年間をぶつける大会でもあったので、それぞれがやっぱり違った意味があり、特別な意味があったなと思います。
――一方で、車いすテニス人生で一番の挫折や苦しんだ時期はいつですか?
けが(の時期)になりますね。肘のけがを2012年にして、術後半年で(ロンドン)パラリンピックがあったので、一番つらかったですね。
――その時の困難をどのように乗り越えたのでしょうか?
周りの支えもありましたし、気持ちの面での工夫もありましたね。手術した日からパラリンピック決勝の前夜まで、毎日、iPadでロンドンのセンターコートの写真を見てイメージしたり、そこで最後、自分がガッツポーズしているのを想像してから寝ることをしていました。何とか自分自身を信じようと、そういった努力をし続けたことが勝因だったかなと思いますね。
――ポジティブなイメージをずっと持ち続けることが大事ですか?
そうですね。焦りはありましたが、最後は自分が勝つぞという気持ちを強く持っていました。