タイリーグに“日本人監督ブーム”が到来 三浦泰年監督「ポジティブな情報を発信」
「タイをもっとポジティブに伝えるべき」
今季からチェンマイFCを率いる三浦泰年監督。ポテンシャルのある選手はたくさんいるという 【写真:アフロスポーツ】
正直、最初の頃のことはもう忘れましたね。日本では、やったことはけっこう忘れない方だったんですけれど。ノートにはやったことが書いてありますが、タイではそれよりもどんどん前に進んでいくことが大事なのかなと。
――それは、日本とタイのどんな違いから生まれた変化なのでしょうか?
タイの選手たちは良い言い方をすればエンジョイ、楽しんでいる。ちょっとネガティブに言えば少し軽く考えているようなところもある。気質の違いがある中で、情熱をもって触れ合っていくことが一番大事なんじゃないか、と感じたのかもしれません。
――そういうタイ人の気質についてはどのように感じていますか?
日本人の場合は、到達地点があるとしたらその少し前で構えるようなところがあるけれど、逆にタイ人はそこを通り過ぎてしまうくらいなんです。理解半分で行ってしまうということでもあるのですが、サッカーにおいては必ずしも悪いことだとは思わない。僕のフィロソフィーとして「やらないより、やって失敗した方がいい」というのが一つあるので、そういうタイ人のキャラクターには悪い印象は持っていません。
――時間の面でのルーズさなどがよく語られますが、その点はどうですか?
ルーズな選手はいますが、それは日本でも南米でも欧州でも必ずいます。「人前で叱られると落ち込むのがタイ人」というようなことも聞きますが、それだって誰でもそうですよね? もう少しポジティブに、タイやタイのサッカーを日本に伝えていくべきなのではないかと僕は感じます。
練習に遅れる理由にしても、日本では許されなくてもタイでは許されるというものがある。だから、前もって理由を言ってきた時にはそれは受け入れる準備をしています。その中で、集合した時には必ず点呼を取って、いない選手に関しては「○○が来てないけれど知ってるか?」と選手たちに聞くとか、日本とは違うやり方で工夫はしています。
「楽しむこと」を知っているタイの選手たち
日本の方が組織としてやってきているものが長いので、どういうふうにサッカーをすればいいかというスキルは上だと思います。攻撃であればどうしたらフリーでボールをもらえる回数が増えるか、守備であればどうしたら相手を抑えることができるか。
ただ、個人の持っているテクニック、本能的なものは変わらないような気がします。今は日本が上でも、将来的には分からないのではないかと感じさせるポテンシャルのある選手はいっぱいいますよ。もう少し考えることを覚えれば、もっとよくなると思います。
――そういう中で、チームを成長させるためにどこから手をつけましたか?
僕の練習は少し理解しづらいというか、考えさせるトレーニングなので最初はシリアスな感じになるかと思っていたのですが、彼らは最初から楽しんでいたんですね。日本の場合、「そうはいっても、楽しむんだぞ。自由にやっていいんだぞ」と言わなければいけないところを、さっきも言ったように彼らは「楽しむ」ということは根本に持っている。だから、そこのアプローチは、日本の場合とは逆のような感じだったかもしれません。
――先日もAFCチャンピオンズリーグで来日したタイのチョンブリFCが試合前に富士山観光に行ったことが話題となりましたが、試合への入り方などにも違いがありますか?
日本だったら「遊びに来たんじゃない」となるところですよね。僕自身も弟のカズ(三浦知良/横浜FC)もそうだけれど、日本人の場合はストイックに真面目にやっていって本番に臨む。でも、彼らはもしかしたらスイッチを切り替えるのが日本人よりも優れているのかな、と。日本人はどちらかというと、スイッチのオンとオフが苦手なところがありますから。
――そんな異文化の中で、今季タイには7名の日本人監督がいます。日本人がアジアのリーグで指揮を取ることの意義をどう考えますか?
まだ自分は何もしていないので、その意義が何かというのを言える状況ではないんです。けれど、さっきも言ったように、できるだけタイのポジティブな情報を発信していきたいと思います。また、しっかりとした仕事をして、タイで日本人監督が仕事をしたというポジティブな情報も持って帰れればと。自分自身もこの国から学ぶことがあるでしょうから、いろんなものを日本に持って帰りたいと思っています。