女子ボクシング界を盛り上げるために〜世界王者・藤岡奈穂子の使命〜
年間最高試合をもたらした川西戦
14年7月に行われた川西友子との防衛戦は14年の女子年間最高試合に選出された 【中原義史】
両者のハイレベルな攻防は、後半に突き放した藤岡が判定で勝利。試合後、川西の控え室を訪ねた藤岡が「頑張って……」と言いかけ、「(一緒に)頑張りましょう!」と言い直した姿が印象的だった。
ところが山口戦に続き、2人に年間最高試合の栄誉をもたらした一戦の先には、また落胆が待っていた。しばらくして、川西が引退を表明するのだ。
「階級を上げて戦った2人が辞めて。盛り上げてるのか、盛り下げてるのか、わからないなと悩んだこともあった」という藤岡は大阪に川西を訪ね、説得を試みた。
「もっと早く会いたかったと言ってくれて。大阪帝拳では女子はひとり。周りの状況を知るきっかけもないし、相談もできない。このままでは辞めていく人がいても仕方ない環境だし、もったいないと」
「日本の代表として海外でやる」
低酸素トレーニングでは「最初からここまで動ける人はいない」とスタッフも舌を巻くほどのフィジカルを披露 【スポーツナビ】
「ジムの垣根を越えて、4回戦からチャンピオンまで一緒の定期練習会みたいなのをやりたいとは、ずっと思っていたんです。アドバイスもできるし、悩みがあれば、相談にも乗れる。みんなが頑張ってるんだから、頑張ろうと思ってもらえるかもしれない。ひとりでは難しいことなので、協会やいろいろな方に協力してもらって、実現できれば」
経費のかかる国内での世界戦開催は、スポンサーの協力がなければ、困難になってきている。海外の有力選手ともなれば、その招聘はさらに難しい。藤岡の海外連戦もそんな事情と無縁ではない。それでも「もう日本だけでは限界があるし、日本を代表する選手のひとりとして、海外でやるという意識もある」と前向きに捉えるのは山口や川西の思いを背負っているからだ。
「自分にできることは、いい相手といい試合をし続けることで、辞めていった選手たちに『藤岡とやって良かった』と誇りに思ってもらうこと。それが自分の使命でもあると思う」
40間近でも驚きのパフォーマンス
低酸素トレーニング中の厳しい顔とは一転、練習終了後は柴田トレーナーと笑顔の2ショット 【スポーツナビ】
そのほかにも、効率的なサーキットメニューで総合的にフィジカルを鍛えるクロスフィットトレーニング、前戦から採り入れ、体のキレが増したと効果を実感したファスティング(断食)など、短い約1カ月という準備期間のなかで最善を尽くしている。今年8月で40歳。「幸い体力は並みよりはあると思うんで」とは本人の弁を待つまでもない。ただ、「パフォーマンスが落ちたときが辞めどき」と競技生活がそう長くないこともわかっている。
女子ボクシングの未来を考え、階級を上げたからこそ、拓けた道。彼女の道はメキシコ経由でどこにつながるだろうか。