佐々木美行の指導者としての喜び フィギュアスケート育成の現場から(8)

松原孝臣

教師とフィギュアスケート指導の両立

佐々木が監督を務めるFSCは高橋大輔ら全国大会などで活躍する選手たちを輩出してきた 【積紫乃】

 創立から20年を超える年月を重ねてきた倉敷フィギュアスケーティングクラブ(FSC)。高橋大輔をはじめとして全国大会などで活躍する選手たちも輩出してきた。
 同クラブの監督、佐々木美行は立ち上げから今日まで、常に中心にあった。クラブの歴史であると言っていいかもしれない。

 ものごとは、得てして、始めることよりも、続けることが大変であり、エネルギーを要すると言われる。それを考えれば、そもそもは決してフィギュアスケートが盛んであるとは、根付いていたとは言い切れない地での歩みにこそ、大きな価値がある。
 しかも佐々木は、小学校の教師でもある。それと同時に、スケートの指導を続けてきた。

 クラブの運営は、保護者も参加しての、ある意味、集団体制で行なわれている。
 とはいえ、中心にある佐々木の立ち位置を考えれば、両立がやさしいこととは到底、思えない。

 しかし、佐々木は言う。

「小学校、スケート、そのどちらかだけだったら、たぶん行き詰まっていたと思います。学校は、さまざまな思いを持った子たちが集まってくる場所で、クラブはスケートをしたいという明確な目標を持った子たちが集まっている。そうした違いはありますが、それぞれに面白い場所です。
 学校で何かうまくいかなくても、スケートでうまくいくとそれで復活できるし、スケートで疲れても学校で疲れがとれることもある。両方だから元気にやってくることができたのだと思います」

 2つの場があることの効用を語ると、こう付け加えた。
「大変だと思わない最大の理由は、毎日教え続けていて、飽きた、と感じることがまったくないからかもしれません」

「小さな実感の積み重ねで今がある」

 毎日繰り返される時間は、ときに、指導者にも緩みをもたらしたり、日常の単なる1つの仕事と思わせかねない危険性をはらんでいる。

 佐々木はそれを否定する。

「だって、毎日、楽しいですから。自分なりに目標を毎日立てて、例えばアクセルで苦しんでいる子がいるとすれば、今日こそ立たせてあげようと思い、それがかなえば、よかったなと思える。毎日毎日、そういう思いを抱けるのだから、楽しいですよね。そんな小さな、小さな実感の積み重ねで今があるんですね」

 さらに続けた。

「何よりも、目の前にいる子が進化するのがすごく楽しいんですね。例えば今朝も、午前4時半に家を出て、午前6時まで岡山のリンクで滑ってきました。その中に、テストの課題がまだできていない子がいました。その子が新しい級に合格できるように、課題をクリアできれば、と思っていましたが、うまくこつをつかんでくれた。よかったなと思って帰ってきましたし、もうそれだけで、早朝から出かける大変さもなくなりますよね」

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著者プロフィール

1967年、東京都生まれ。フリーライター・編集者。大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後「Number」の編集に10年携わり、再びフリーに。五輪競技を中心に執筆を続け、夏季は'04年アテネ、'08年北京、'12年ロンドン、冬季は'02年ソルトレイクシティ、'06年トリノ、'10年バンクーバー、'14年ソチと現地で取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)など。7月に『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行。

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