佐々木美行の指導者としての喜び フィギュアスケート育成の現場から(8)
教師とフィギュアスケート指導の両立
佐々木が監督を務めるFSCは高橋大輔ら全国大会などで活躍する選手たちを輩出してきた 【積紫乃】
同クラブの監督、佐々木美行は立ち上げから今日まで、常に中心にあった。クラブの歴史であると言っていいかもしれない。
ものごとは、得てして、始めることよりも、続けることが大変であり、エネルギーを要すると言われる。それを考えれば、そもそもは決してフィギュアスケートが盛んであるとは、根付いていたとは言い切れない地での歩みにこそ、大きな価値がある。
しかも佐々木は、小学校の教師でもある。それと同時に、スケートの指導を続けてきた。
クラブの運営は、保護者も参加しての、ある意味、集団体制で行なわれている。
とはいえ、中心にある佐々木の立ち位置を考えれば、両立がやさしいこととは到底、思えない。
しかし、佐々木は言う。
「小学校、スケート、そのどちらかだけだったら、たぶん行き詰まっていたと思います。学校は、さまざまな思いを持った子たちが集まってくる場所で、クラブはスケートをしたいという明確な目標を持った子たちが集まっている。そうした違いはありますが、それぞれに面白い場所です。
学校で何かうまくいかなくても、スケートでうまくいくとそれで復活できるし、スケートで疲れても学校で疲れがとれることもある。両方だから元気にやってくることができたのだと思います」
2つの場があることの効用を語ると、こう付け加えた。
「大変だと思わない最大の理由は、毎日教え続けていて、飽きた、と感じることがまったくないからかもしれません」
「小さな実感の積み重ねで今がある」
佐々木はそれを否定する。
「だって、毎日、楽しいですから。自分なりに目標を毎日立てて、例えばアクセルで苦しんでいる子がいるとすれば、今日こそ立たせてあげようと思い、それがかなえば、よかったなと思える。毎日毎日、そういう思いを抱けるのだから、楽しいですよね。そんな小さな、小さな実感の積み重ねで今があるんですね」
さらに続けた。
「何よりも、目の前にいる子が進化するのがすごく楽しいんですね。例えば今朝も、午前4時半に家を出て、午前6時まで岡山のリンクで滑ってきました。その中に、テストの課題がまだできていない子がいました。その子が新しい級に合格できるように、課題をクリアできれば、と思っていましたが、うまくこつをつかんでくれた。よかったなと思って帰ってきましたし、もうそれだけで、早朝から出かける大変さもなくなりますよね」