7戦不発、本田圭佑の突破口はどこに? カギは「引いた相手を崩す攻撃の向上」

清水英斗

試合と会話をしながらプレーする

厳しいマークに遭いながらも、本田は随所にチャンスを演出。引いた相手をいかに崩すかが、チームとしても今後の課題となる 【Getty Images】

「この試合は自分に何を求めているのか?」

 本田は、試合と会話をしながらプレーするタイプの選手だ。ジェノア戦は前半10分に印象的なシーンがあった。右ウイングとして出場した本田は、センターバックのアディル・ラミがボールを持つと、右サイドから左サイドまでスーッと移動し、縦パスを引き出してワンタッチでさばいた。一言で言えば「流動的なポジショニング」。自分の持ち場を離れたわけだが、この動きは、実に試合の状況にふさわしいものだった。

 4−3−3でディフェンスを行うジェノアは、中盤の3枚がミランの中盤の3枚をマンツーマンで追い回し、高い位置からプレスを掛けてきた。ミランはDF陣がプレッシャーを受けて自陣にくぎ付けにされ、間延びしてしまう。縦パスの距離が長くなりすぎて、本田のスペースへの飛び出しも効果的にならない。

 しかしその結果、ポッカリと空いたのが、ジェノアの中盤とセンターバックの間のスペース、いわゆる『バイタルエリア』と呼ばれるところだ。本田が右サイドの持ち場を離れて、このスペースへ侵入すると、マッチアップしていたDFアントネッリは、本田をどこまで追いかけるべきか迷い、ダッシュしようとしてブレーキ、やっぱりダッシュ、と逡巡(しゅんじゅん)するうちに瞬間的に本田をフリーにした。

 試合と会話し、ジェノアの守備システムの弱点を突いた本田の好判断だ。得点にはならなかったが、その他の場面でも、本田は何度かこのエリアでボールを受け、チャンスを演出している。

チャレンジを可能にしたシステム

 2−0で快勝した前節のウディネーゼ戦でも、本田は試合に合った動きを取り入れた。ウディネーゼはシステム上、アンカーの両脇のスペースが空きやすい。この試合で本田は少し中央に入ってポジションを取ると、そこから斜めにサイドバック(SB)の裏を狙う飛び出しを効果的に使った。それまでの試合では、外から中央へ飛び出すカットインの動きを多く使ってきた本田だが、SBに1対1でマンマーク対応されてしまうと振り切りづらい。この試合ではいったん、SBの守備範囲から離れ、中から外へ向かって飛び出すカットアウトの動きを用いることで、相手の裏を陥れるためのプレーの幅を見せていた。

 このようなチャレンジが可能になるのは、システムの恩恵も大きい。昨季のミランで用いられた4−2−3−1ではなく、4−3−3の場合、右インサイドハーフ(ジェノア戦ではリッカルド・モントリーヴォ)が本田の近くにいるため、持ち場を離れても右サイドのカバーが期待できる。

 もともと本田は俯瞰的なビジョンを持っているプレーヤーだ。自分の都合だけでなく、試合の声を聞いてプレーできるタイプ。そういう選手に自由を与えやすいシステムを採用しているのは、チームにとってもプラスだろう。

 どのチームもミランの縦への速さを警戒しているので、簡単に裏のスペースを突くのは難しい。今後はそこをいかに崩していくか。バイタルエリアの勝手を知っている本田が入り、ジェレミ・メネスやステファン・エル・シャーラウィを生かしていくか、あるいはパブロ・アルメロのクロスに本田が飛び込んだ場面のように、サイド攻撃から本田がフィニッシャーになるか。

 最終的にジェノア戦では相手が引いたこともあり、後半の終盤は本田とエル・シャーラウィを下げて、ジャンパオロ・パッツィーニとムバイ・ニアングを投入してパワープレーのような形になったが、引いた相手を崩す攻撃の向上は、今後も注目していきたいところだ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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