ミスなく走った駒澤大が全日本4連覇 元箱根ランナー神屋氏、徳本氏らが解説

構成:スポーツナビ

駒澤大には『駅伝の強さ』があった(徳本一善)

 今回のレースは湿度が高いという条件がありましたが、例年より涼しい気候の中で、少し動きが悪い選手が多かったように感じます。1区の村山謙太選手、村山紘太選手(城西大)もそうですし、8区を走ったエノック・オムワンバ選手(山梨学院大)も含め、動きが悪い中で地力が試されるレースになりました。
 その理由のひとつとして、出雲駅伝がなかったことの影響はあったと思います。調整をする中で、出雲駅伝をポイント練習に当てていたチームもあったと思いますが、(本番で駅伝を走る)経験がないところに、この全日本の難しさが出てしまったと思います。
 そしてやはり3連覇をしていた駒澤大が『駅伝を知っている』という部分で、明治大と青山学院大との差につながったと思います。前評判では駒澤大の4区を走った中村匠吾選手が調整で出遅れていたと。一方、明治大と青山学院大は万全のメンバーが組めていたのですが、それでもあれだけの差がついてしまった理由は『駅伝の強さ』だと思います。

 東洋大の4位という結果には、ここには間違いなく、昨季まで主力だった設楽兄弟(啓太、悠太)というエースが抜け、走力がチームとして落ちたことが影響していると思いますね。1区の服部弾馬選手、2区の服部勇馬選手の兄弟と比べがちですが、そういう意味では、もう少し地力と結果がほしいところでした。

 今後の展望として、チームとしては明治大が強いと思います。今回のレースは1区で出遅れながらも、区間賞を3つ取り(2区の有村優樹、5区の横手健、8区の大六野秀畝)、駒澤大と同じだけ取っています。『流れを変えられる選手がいる』ということに焦点を置くと、17位から2位にまで上がれるチームは力があると思うので、そこは評価ができます。もし出遅れがなければ、おそらく1分以内でアンカーにたすきを渡せたと思うので、駒澤大にプレッシャーをかけられたと思います。

 3位の青山学院大は、昨年と比べてチーム力が上がりましたね。特にアンカーの神野大地選手の走りは、最後は抜かれましたが、よく食らいついていて、その姿勢は今までの青山学院大にはできなかったレースだと思います。今回は青山学院大の選手が、最後の頑張りを見せ、動かせない体を動かす地力がある選手を見られたことは、力が上がっている証拠ですし、箱根駅伝も上位に来ることは間違いないですね。

 箱根駅伝に向けて、ネックは山の区間。そこがまだ見えないですよね。1区から4区はやはり駒澤大が中心になると思いますが、この後、5区で新たな選手が出てくるかどうかで勢力図が変わると思います。やはり駒澤大を破るために5区、6区という区間でどうするかがポイントですね。
 あとはこれから東洋大がどこまで持ち直すか。また、今回調子の良さを見せた東海大がどこまで上がっていくか。5強(駒澤大、明治大、青山学院大、東洋大、早稲田大)と言われている大学に一矢報いることになるか、そのあたりも注目です。

勝利の『トレンド』に乗れた駒澤大(加藤康博)

 今回の勝因は駒澤大の作戦勝ち、大八木監督の狙い通りのレースだったと思います。
 1区にチームのエースである村山謙太選手を置き、ここでハイペースを作りたいと。ここでふるい落とし、優勝争いをするチームを絞り込みたいという作戦でした。そして一の矢を放つだけでなく、2区に中谷圭佑選手という計算の立つ選手を置くことで、盤石なものにし、それがうまくはまったレースだったと思います。この段階でセーフティーなリードまで広げ、調整に不安があった4区の中村匠吾選手が気分よく走れて区間賞を獲得し、5区に配置された1年生の工藤有生選手も区間2位という結果を残しました。つまり4区までで流れができ上がっていました。

 2位の明治大は1区で文元慧選手が17位と出遅れ、4位の東洋大も服部弾馬選手が10位。3位の青山学院大の一色恭志選手は1区6位と粘りましたが、4区で小椋裕介選手が区間8位と遅れてしまいました。どこの大学も4区終了時点で駒澤大と1分以内程度の差について逃がしたくなかったのですが、結局2分以上の差がついてしまい、先行逃げ切りがきれいに決まってしまいました。
 この1区からハイペースを作るという作戦は、昨年の出雲駅伝から駒澤大がずっと取っています。昨年の出雲では中村選手が1区で先頭を奪い、昨年の全日本でも中村選手が1区区間賞。今年の箱根駅伝でも早稲田大の大迫傑選手(現・日清食品グループ)、駒澤大の中村選手、青山学院大の一色選手、東洋大の田口雅也選手と、各校のエースが1区を走り、これが今の大学駅伝のトレンドとなっています。
 ですから言い方を変えると、昨年から続いている勝ちパターンが、今年も続いていると言えますね。

 序盤にリードを奪うことのメリットは、今回の3区でもそうだったのですが、先頭の選手は始めにゆっくりとしたペースで入れます。そこで様子を見てから、後半にペースを上げる。最初は差が縮まりますが、追っているほうは焦って突っ込んでしまいます。一方、前にいる選手はゆとりを持って無理なく後半上げることができ、ブレーキもなくいけるところですね。
 東洋が4位という結果に終わりましたが、いくつかの区間で後半にペースダウンしてしまう選手が見受けられました。それで順位を落としたケースもありました。
 4区以降になると、トップの駒澤大との差があり、青山学院大と競っている場面が多かったのですが、そこで競り負けてしまいました。むしろ東洋大が競り負けたというより、青山学院大が気持ちよく走れた部分が大きいと思います。前回大会では優勝争いに近いところにいませんでしたが、今回は前に出て走れたのが大きいと思います。最後まで自分たちのペースが守れたと。その中で6区の川崎友輝選手が区間賞を取れたことは良かったと思います。

 2位の明治大、3位の青山学院大にとっては箱根駅伝で期待が持てる結果だったとも言えますが、ただ箱根駅伝には山があるので、それを考えると早稲田大も強いでしょうね。山上りの実績がある山本修平選手と、山下りの三浦雅裕選手がいますから。また東洋大も箱根駅伝に向けたピーキングがうまいチームなので、そこも楽しみです。

 6位に入った東海大は着々と力を付けているという印象ですね。『そつのないチーム』という表現が一番適していると思います。爆発的なエースはいませんが、しっかり走れる選手が多く、これは両角速監督の手腕だと思います。また8位の大東文化大も良かったですね。1区の市田孝選手、2区の市田宏選手が序盤に流れを作れたのは良かったと思います。その流れで最後までシード権争いができたので、箱根駅伝でも楽しみなチームです。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント