無良コーチが息子・崇人に求めること 「一番になるという気持ちをより強く」
一番になれるかどうかは本人の心持ち次第
息子・崇人のことは、競技者というよりも自分の子供として見ているという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
崇人はやっぱり全部分かってしまうんですよね(笑)。「もうちょっとやればできるんじゃないの?」というところで止まっていると、それはばれていて、本人もその心が理解できているんです。普通の先生との関係なら他人なので「こういうふうにやればいいんじゃない?」と普通に話せると思うんです。でも「やりなさい」というふうに感じてしまうんで……。そういう時期も長くありました。その意味では、長久保(裕)先生、重松(直樹)先生らにお願いをして、一番大変な時期にぶつからずに済んできたのかな。でも家の中でスケートの話はしないと言いながらも、どうしてもその話になるんですけれどね(笑)。
――無良選手の指導で心掛けていることは何かあるのでしょうか?
僕は教えもしますが、上からだけではなく、横にも立ちますし、下にも立ちます。ご飯も作りますしね。崇人がやりやすいように持っていくようにしています。もし他人の先生だったらなかなかそれはできないと思うんですよ。力を引き出す仕事だけではなく、一緒にいてあげること、下にいてあげること。状況に応じて、そういった立場を取りながら、崇人を支えてあげることを考えているので、あまり教えているという意識はないんです。もちろん必要なことはポイントで伝えています。「今はこうあるべきじゃないの?」とか。今は濱田(美栄)先生にお世話になっていて、それもまた違う角度から「こういうこともできるんじゃないの?」というアドバイスが崇人にとっては前に進むきっかけになったりする。今シーズンからはHIROTAのバックアップも得て、さらなる飛躍を目指していきます。
――そもそも無良選手がスケートを始めた経緯は?
朝と夜に家で会えなかったので、僕がレッスンしているお昼過ぎくらいの時間に母親と一緒にリンクに来て、そこで少し遊んでもらったりする。それがリンクに入るようになる、氷の上に来る、友達ができるようになる、そして知らないうちにスケートをやっていたと。なるべくしてなった設定ですね。崇人からしたらサッカーのボールを蹴りたくて自分から行ったのではなく、スケートというものが日々生活していく中で自然に入っていった。だから「どうしてスケートを始めたの?」と言ったら「なんとなくそうなったんじゃないの」という意識くらいしかないと思いますよ。
――ご自身も選手として活躍されていましたが、無良選手を競技者としてどのように評価していますか? また人間としてはどう見ていますか?
競技者というよりも、僕の中ではあくまで自分の子供なんですよ(笑)。性格は優しいので、自分が前に出るというタイプではないですね。周りを見てバランスを取れるし、人の手助けをしたりする優しい子だと思うので、そういう意味ではよい大人になったのではないかと思います。ただ、競技者として本当に一番になれるかどうかは本人の心持ち次第だと思います。「俺が一番になる」という意気込みをより強く持ってほしいなと。でもそれは持とうとして持つものではなく、自然と心の中に植えつけられるものだと思うので、今後はそういうものを手にする4年間にしてほしいですね。
4年前より五輪は近くに見えている
一番怖いのはケガですね。「腰が痛い」と言われるときはやはり心配です。たまに疲れから出てくるんですよ。あまり疲労を残さないようにしながら、自分の家でもメンテナンスできるように、トレーナーの先生と話をして、超音波の治療器を貸してもらったりしています。今までもやっていたんですが、本当の意味で自分の体をメンテナンスしようとは思っていなかったんです。高橋(大輔)選手ほどはできないかもしれませんが、できる限りスケートを続ける気持ちで、今はスタートしているようです。そういう意味では、いろいろ気持ちが変化して必要性を感じていると思います。
――すでに4年後を目指して動いていると思いますが、無良選手を五輪に連れて行くためにコーチとしてどのようなプランを持っていますか?
完成形がどこなのか分からないんですけれど、ソチ五輪の4年前から比べると全然近くに見えていると思います。ソチの4年前は、とにかく頑張って頑張って何かやっていかなかなければと、上を見ながら上ってきました。今は4年後の出来上がりというのがおぼろげながら、今のスケートに表れてきていると思います。本当に毎年いろいろな戦略を考えています。ただ、シーズンが終わるときに「ここまで来たよね」というのを感じて終わる年を今後は繰り返して、それを3年間やって、最後の年には「狙うところはどこなのか」という気持ちを持って、試合に出られると思います。安定感が増してきていると思うので、もう少し力を抜いてジャンプを跳べるようになると余裕が出てくると思います。まあ、バーンと跳んでいくのが崇人の良さなので、それは失っちゃいけないのかなと思うんですけれどね。
――最後に、今後に向けての課題を教えてください。
「何が足りない?」と言われたら、各要素が足りないから今の点数しかないんですね。その足りないものを自分のものにするしかない。ファイブコンポーネンツの強化とテクニックの安定、これが競技としての必要な要素です。男らしい魅力的なスケーターになれるようにダンスとプログラムの強化をしていくことで、点数が変わっていくと思います。もっとスケートと共鳴していくことですね。
(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)