9年ぶりVへ進む虎党唯一の不安、和田監督をめぐる複雑な思い

菅野徹

「下級生」がチームの中核になりつつある阪神

9年ぶり優勝を目指す阪神を率いる和田監督 【写真は共同】

 もちろん鳥谷敬やマートン、メッセンジャーや能見篤史、岩田稔(よく復活した)ら、「上級生」たちが実力でチームをけん引しているのだが、その一方で選手会長にもなった上本と、正捕手をつかもうとしている梅野、そしてエースの風格さえ漂い始めた藤浪晋太郎らの「下級生」たちがいよいよチームの中核になりつつある。

 つい最近までは「大先輩」矢野燿大、金本知憲、下柳剛、赤星憲広、藤川球児、桧山進次郎らがいた黄金時代の面影を、どこかで追い求めてしまっていたが、はつらつとした下級生たちによってガラッと刷新された。

 雰囲気のある梅野が捕手に座り、上本・鳥谷の早稲田コンビの二遊間、好守のセンター大和(現在は脇腹痛で離脱中、早く戻れ)と連なるセンターラインは、守りを中心に考えるべき甲子園の野球にマッチしている。攻守に伸長著しい今成亮太も三塁レギュラーをつかみかけ、伊藤隼太も好打で外野の一角を狙える位置まできた。

 投手も藤浪だけでなく、「スピードガン以上に速いストレート」と制球力が持ち味のルーキー岩崎優がよく頑張り、負けはしたがドラ1ルーキー岩貞祐太も無事にデビュー登板できた。リリーフでは2年目の金田和之が勢いのある球を投げる。昨季活躍した松田遼馬も復帰が近づいているようだ。

 もちろん「新チーム」への移行が加速する中で、ベテラン選手たちも負けじと競い、ようやくいい形になってきた。ここからは今まで不調だった者、けがが癒えた者らも「レギュラー争奪戦」に加わり、活性化に拍車がかかっていくに違いない。希望が見えなかった昨年後半と比べて、先行きのなんと明るいことか!

優勝はしてほしいけど…複雑なファンの思い

 ここまでは、ある程度、客観的に阪神の現状と今後を見てきたつもり。ここからは、一阪神ファンの私見が延々と展開されていくことをあらかじめ断っておく。阪神ファンだから当然、阪神の優勝を願っている。当たり前だ。しかし正直に言うと、心から優勝を願えていない自分もいる。それは「優勝したら和田監督が続投することになってしまうから」という、ただ一つの理由による。

 しつこいようだが、阪神はめったに優勝しないチームだ。だからこそ、それぞれの優勝には強い思い入れがある(私の場合、たったの3回だけだが)。その歴代優勝監督の中に、果たして和田豊が入っていいのだろうか。何か違う気がしてならないのだ。乱暴な論だが、同じ感覚の阪神ファンはかなり多いのではないかと思っている。

 もちろん選手も監督もコーチ陣も、ペナントレースを必死で戦っている。だから、あえていちいち理由を挙げつらうことはしないが、「和田監督の選手起用や采配が良かった→チームが好調」というようにはどうしても考えられないのだ。むしろ、逆、逆と選び続けて、最後にようやくここにたどり着いたようにしか思えないのだ。

 もし私の想像通り、多くのファンが「優勝はしてほしいが、和田監督の続投はイヤだ」と思っているなら、これは実にゆゆしき問題だ。阪神は、ファンと一体となった攻撃で相手ディフェンスに重圧をかけるチームだ。時に甲子園のマウンド上で、相手投手の足をすくませることもあるという。一方で、あからさまに落胆したり不平を表したりして、味方の選手をも傷つけてしまう「諸刃の剣」でもある。ファンに本気度があるかないかは、今後の戦いに必ずや影響するはずだ。

 うん、ここは一つ、今季ピンポイントの補強を成功させた阪神フロントを信用してみよう。チームの成績と監督の力量評価を直ちに結びつけず、たとえ優勝しても、必要なら監督を交代する。商売上手な球団なので、ひょっとしたらあるのではないか。

 いや待てよ、そうじゃない。さすがに力量に乏しい監督が優勝できるほど、日本のプロ野球は甘くないだろう。もし和田タイガースが優勝する日が来るのなら、それは和田監督がこれまでの反省を生かし、努力し、急激に成長を遂げたということだ。そう認めることにする。よし決めた! 一点の曇りもなく、頑張れ阪神タイガース! ジャイアンツをまくって優勝するのだ!

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著者プロフィール

フリーライター。野球、鉄道、広告コピーなどを中心に雑誌等で執筆中。旧筆名は「鳴尾浜トラオ」。阪神タイガース評論家を自称する。ブログ「自称阪神タイガース評論家」は2003年12月からほぼ毎朝更新中(ただし10〜12年は、阪神タイガース公式携帯サイトにて「トラオの視点」として連載)。著書に『虎暮らし』(2008年/扶桑社)がある。

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