アクシデントではなかったスペインの敗退 W杯で見た悪夢を新たな成功の糧に

ジョーカー不在のメンバー構成

新たな成功への先導役に、最も相応しい指導者はデル・ボスケをおいて他にない 【写真:ロイター/アフロ】

 常連組の選手たちに対するデル・ボスケの行き過ぎた愛着のようなものも感じられた。彼らのこれまでの貢献を考慮すれば、それは理解できることではある。だがこの4年間、彼らがほぼ無条件に招集され続けてきた傍ら、アルバロ・ネグレド、ロベルト・ソルダード、フェルナンド・ジョレンテら継続的に高いパフォーマンスを保ってきた多くの選手たちが最終メンバーから漏れ、招集されたサンティ・カソルラやフアン・マタなどにしても、重要な試合ではほとんど出番を与えられずにいる。

 今大会のチームはシャビとシャビ・アロンソを中心に動いていたが、2人の司令塔は共に本来のレベルにはなかった。米国のニューヨーク・シティへ移籍したダビド・ビジャに続き、シャビはカタールのクラブから受けたオファーを受け入れようとしている。それは彼らが間近に迎えた引退後のキャリアを考慮しはじめたからに他ならない。

 こうした要因が重なる中、チームはダイナミズムを失い、ベンチには有効なジョーカーがおらず、プレーの幅を増やす戦術的なバリエーションも放棄した状態で今大会を迎え、結果としてオランダとチリになすすべなく完敗することになった。第2戦でのグループ敗退という悪夢は、同時に輝かしいサイクルの終焉をも意味する。

この敗退を新たな成功の糧に

 我々は08年から6年間に渡り、この競技に対する向き合い方を変えてくれた彼らに感謝しなければならない。しかし、今はもう新たな成功への道を見いだすべき時が来た。

 その先導役に最も相応しい指導者はデル・ボスケをおいて他にない。今スペインに必要なのは根本的な変化ではなく、既存のプレースタイルを発展させ、バリエーションを増やし、イスコ、ジェラール・デウロフェウ、ダニエル・カルバハル、ヘセ・ロドリゲス、アルバロ・モラタ、コケといった続々と台頭してくる若い世代の選手たちを中心に据えていくことだからだ。

 これまで積み重ねてきたものをすべて捨て去る必要はない。アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、マタ、セルヒオ・ブスケツ、セルヒオ・ラモス、ハビ・マルティネスら、まだまだ代表に貢献できる“生存者”たちは何人もいる。

 スペインにとってあまりにも早く終わってしまった今回のW杯は、なぜ自分たちのプレーが無効化されてしまったのかを冷静に分析するための材料としなければならない。世界中に祝福され、“ラ・フリア・ロハ(激情の赤)”から“ラ・ロハ(赤)”へと愛称を変える要因となった美しいプレースタイルはそのままに、再び力強さや手堅さ、攻撃の深みを取り戻すために。

 スペインの敗退はアクシデントではなかった。だが、誰が死んだわけでもないのだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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