称賛すべき2敗を演じたオーストラリア 世代交代推し進めたポスタコグルー監督

タカ植松

ポスタコグルーが覚悟を持って進めた世代交代

世代交代を推し進めたポスタコグルー。これからが新しいオーストラリアの戦いとなるだろう 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、サッカルーズの現指揮官であるポスタコグルーは、このように多少なりとも因縁のあるオランダとの対戦にも、特に何かの感慨を表すわけではない。前任のオジェックが著しく停滞させた世代交代の流れを進めつつ、W杯でも結果を残すという難しいタスクを背負わされたポスタコグルー監督にしてみれば、オランダ戦は「W杯という世界最高峰の舞台での強敵相手のタフな試合」、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 ポスタコグルー監督は、揺るがない信念でサッカルーズにとって積年の課題であった世代交代を一気に推し進めた。オジェック体制で重用された選手の中には、彼の就任後には代表の構想にすら含まれない選手も多かった。そういった流れの中で、ヒディンク時代、その後の欧州路線時代を知る選手は自然淘汰(とうた)され、現代表でヒディンクの06年大会、ピムの10年大会からの生き残りは、ケーヒル、マーク・ブレシアーノ、マーク・ミリガン(元ジェフ千葉)、イェディナク、ダリオ・ビドシッチの5名のみ(このうち最初の3名が両大会に選出)。現在のサッカルーズ周辺では、ヒディンク時代からの欧州路線の残り香はわずかに漂うだけとなった。

 ポスタコグルー監督自身も、さまざまな機会をとらえて、ヒディンク時代から続いた「黄金世代」への依存との決別の意思を表してきた。その象徴的な出来事が、異例とも言える前主将のルーカス・ニールへの事前の「代表不選出通告」だった。所属クラブがない状態が続きながらも代表への意欲を見せ続けた功労者にも容赦をしない姿勢は、ポスタコグルー監督の覚悟を世にはっきりと示し、ようやく動き出した「世代交代」の進捗(しんちょく)を知らしめる契機となった。

奮闘する姿に国内では批判は聞こえてこない

 今大会に臨むサッカルーズは、平均年齢25.74歳と一気に若返った。そんな若いチームの中でも、前述のケーヒル、ブレシアーノ、ミリガンは依然としてチームの核として健在。中堅のイェディナクをキャプテンに据えバランスを取る絶妙な人選は、人心掌握術に長けるポスタコグルー流の真骨頂。さらには、現体制になってからコンスタントに出番を得るようになったマシュー・レッキ―、ジェイソン・デービッドソン、イバン・フラニッチ(すでに負傷で離脱)などは、本番でもきっちりと起用に応える活躍を見せている。
 チームとして非常にまとまりのあるサッカルーズが、今大会に入って強豪相手に一歩も引かずに奮闘する姿は、中継映像を通じて確実に本国にも届いている。今までのところでは、「強豪がそろう組で存在感を発揮してグッドルーザーたる」という国内世論の現実的な目標を達成するには十分な戦いぶりで、「2敗、勝ち点ゼロ」という結果にも批判はまったく聞こえてこない。

 同日に組まれた同組のスペイン対チリ戦は、チリが2−0でスペインを沈めた。その結果、オーストラリアとスペインのグループリーグ敗退が決まった。図らずも、次戦の両国の対戦は、お互いが今大会での「最後の意地」を懸けての対決となる。

 ポスタゴグルー監督は、試合後の会見で「ここ(W杯)には経験を積みに来たわけではなく、世界にインパクトを与えに来た。この2戦でそれができなかったことに落胆している」と語った。ということは、ポスタコグルー監督は過去2戦のインパクトでは満足していないということだ。そんな強気の指揮官に率いられるサッカルーズが、前回王者相手に特大のインパクトを残して大会を去る可能性を決して低く見積もってはならないだろう。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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