球界再編が生んだ思わぬ“副産物” 63歳の新人監督は元近鉄のブルペン捕手
拡大志向の韓国、選手育成に注力
球界再編以降に日本が取り組んだ育成方法や球団運営が浸透している韓国。近鉄、楽天で培ってきたノウハウをもとに監督を務めるのが石山だ 【ストライク・ゾーン】
「(北海道)日本ハムと広島の2軍は、選手起用でしっかりとした球団の方針が見えました」
この2球団はフリーエージェント(FA)選手の獲得に頼らない、自前の選手育成による戦力強化が特徴だ。中でも日本ハムは06年以降、4度もリーグ優勝し結果に結び付けている。日本ハムの成功は韓国の球団関係者の中でも話題となり、昨年はLG、SKなど複数の球団が日本ハムの施設を視察。また、石山に日本の球団のシステムについてアドバイスを求める者も少なくなかった。
韓国では近年、ほとんどの球団がファーム施設の新設、移設を進めている。また、昨年まで3連覇を果たしているサムスンは今年、3軍体制を発展的に改めた育成強化部として、「ベースボール・ビルディング・アーク(BBアーク)」を立ち上げた。そのBBアークの投手部門を担当しているのは、11年にサムスンでプレーした門倉健だ。日本人コーチを育成部門に据えていることからも、韓国の「若手を育てよう」という姿勢がうかがえるだろう。
韓国が育成に力を入れる理由には、日本とは異なる事情がある。韓国は現在、9球団1リーグ制。10年前、オリックス、近鉄の合併による奇数でのリーグ運営を避けるため、「もう一つの合併」が進もうとした日本とは対照的に、韓国は来季、球団が1つ増え10球団になる。この10年間で観客数が約3倍に増えた人気を後押しにした拡大志向だが、その反面、戦力分散によるレベル低下が懸念されている。
また、韓国は野球人口が少なく、野球部のある高校が昨年の時点で56校。部員数はわずか1,808人しかいない(大韓野球協会調べ)。限られた人材をどう生かすかが大きな課題だ。前出の斗山・金団長が石山を評価する「捕手出身ならではの視点と豊富な経験」とは、近鉄でブルペン捕手、コーチとしてピッチャーに気持ちよくボールを投げさせ、楽天ではスカウトとして選手の可能性を探ってきた石山のノウハウだ。「人材の有効活用」。これが今の韓国の監督に求められている。
試合前の石山は選手に積極的に声を掛け、時には冗談を飛ばす。「監督になったからといって性格が変わることはない」と親しみやすい人柄はそのままだ。
楽天・星野監督が石山に送ったエール
一方、石山率いる斗山はAクラスの4位。リーグ全体が極端な打高投低で、斗山のチーム打率3割7厘(リーグ1位)に対し、防御率は5.82(同6位)だ。石山は「先発ピッチャーが勝てないのがしんどい」と我慢の日々が続いている。
「石山、監督は楽しんでやれ。楽しまないとしんどいだけだ」
楽天・星野仙一監督はシーズン前、石山にエールを送った。63歳の新人監督誕生。それは再編問題が生んだ思わぬ“副産物”なのかもしれない(記録は6月15日現在)。
<同連載の最終回は6月17日(火)に掲載します>