ゴルフと深いメンタル向上の秘訣は!?=アマでも使える技をスペシャリストが伝授

宮下幸恵

高い集中力を引き寄せるための「今ここ自分」

大スランプからメンタル指導で復活を果たした宮里藍。「目の前のショットにどう集中したか」を記録する「ショット通信簿」で高い集中力を引き寄せ、2010年には世界ランク1位に輝いた 【写真は共同】

 これを実戦するために、山家さんはプレーヤーにあることをしてもらうという。それは、「『今ここ自分』で打てた球はいくつあったか?」を記録してもらうそうだ。

「70ぐらいで回る選手はそのうち60打ぐらい今ここ自分で打った球があるといいですが、それは難しいですよね。思い通りにいくケースが増えていくと、自分がうまくできると認識していく。精度が高くなっていくんです」

 これを聞いて思い出すのは、宮里藍のトレーニング法だ。ニールソン、マリオット両コーチのアドバイスで、2008年シーズン中から取り組んでいたのが、試合の全ショットを5段階で評価する『ショット通信簿』をつけること。ショットがピン側についたか、バーディーパットが入ったかではなく、「目の前のショットにどう集中したか」が評価基準だ。

 そうすることで、「ラウンド後でもショット、パットもよりビジュアルとして思い出しやすい」と言う。2010年のショップライトクラシックの優勝では、最終日の全64ストローク全てが「5」だった。この優勝で藍は日本人として初めて世界ランキング1位にランクインされた。高い集中力が優勝を引き寄せるプレーを生んだのだ。

 トッププロでさえ、集中力という見えないものを、数字として具体化するのだから、100%集中しにくいアマチュアにはより効果的。宮里のように5段階評価は壁が高いが、山家さんの言うように、集中できたか、どうかだけを基準に○、×をスコアカードにつけていくだけでもいいかもしれない。

心のエネルギーを奪われないために必要なこと

 余計なことを考えず、集中力を高めていって夢を叶えたアスリートがいると、山家さんは教えてくれた。

「2005年、K1ダイナマイトで大山峻護選手がピーター・アーツ選手と戦った時のお話をしましょう。ちょうど、2005年夏ごろから大山選手を見ていたのですが、その時まだ年末にアーツ選手との対戦が決まってないのに、大山選手はアーツ選手と戦って秒殺し、リングのコーナーに駆け上がって雄叫びを挙げると、イメージが出来上がっていたのです。そのため、環境を整えていきました。水回りが汚れているから徹底的にきれいにしよう。不要品を片付けよう。スーツケースの車輪が壊れているから治そうと。気がかりがあると心のエネルギーが奪われますから」

 筋骨隆々の格闘家が、重いダンベルを持ち上げるのではなく、台所の水回りを磨く姿は想像しにくいが、ちょっとした気がかりを解消したことで競技への集中度がさらに増し、結果も1R0分30秒でヒールホールドで勝利したというのだから、その効果は絶大だ。

「メンタルトレーニングには、自分が変わる、変えたいという気持ちがないとダメです。メンタルコーチが何とかしてくれるというのでは効かない。依存はNGなんですね。私は依存度合いも見ています。選手には、変わるのはあなただし、変えたいという気持ちが大事と言います」

 夏本番を前に、今年こそ勝負弱さを克服したいと思っているゴルファーの皆さん。ゴルフのスイングや道具など直接関係なさそうなことでも気になることはクリアしてからラウンドに出かけたほうが良さそうだ。
■山家正尚/Yamaya Masanao

(株)プロコーチジャパン代表取締役社長 国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ(ICF―PCC)、国際コーチ連盟(ICF)、2008年賞金女王の古閑美保、埼玉西武ライオンズの菊池雄星投手や、ソチ五輪に出場したアイスホッケー女子日本代表(スマイルジャパン)メンタルコーチを務めるなど16競技の選手を指導。

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著者プロフィール

サンケイスポーツを経て、2006年からフリーに。米女子ツアーを中心にバンクーバー五輪も取材し、新聞、通信社、ネットメディアに幅広く執筆(Twitterは@m_sachi)。2011年にニューヨークで第一子出産し子育て分野にも挑戦。ヤフージャパンで「NY発 子育て新常識」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/miyashitasachie/)を連載している。

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