苦難1年―ヴィルシーナの“心”は甦った 劇的復活、史上初ヴィクトリアマイル連覇

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内田、見事としか言いようのないペース配分

さすが名人・内田! 絶妙なペース配分で後続を完封 【スポーツナビ】

 友道調教師はじめ厩舎スタッフの努力、思いがその心に刺さったか、この日のヴィルシーナは明らかに“違う”動きを見せていた。それがパドック、そして返し馬での出来事だ。トレーナーが笑顔を浮かべて、その時の様子を明かした。
「いつもトレセンや厩舎ではすごく落ち着きがあっておとなしい馬なんですが、ジョッキーが乗るとグッと気合が入ってうるさくなるタイプ。それが去年のエリザベス女王杯(10着)ではすごくおとなしかったから、落ち着きが出始めていい傾向なのかなと思っていたんです。それがまったくダメでしたね。でも、きょうはジョッキーが乗った後、下見所や返し馬で尻っぱねをして振り落とそうとしたんです。それを見て『やっと気持ちが戻ってきた。きょうはやれるな』と思いましたね」

 指揮官の“予感”は最高の結果でもって的中する。ここからは殊勲のエスコートを果たした内田の出番だ。まず、押し出されるように、ではなく、自らハナを取りに行ったことに驚かされた。
「きょうは気持ち良く走らせたいと思っていました。せっかくスピードがあるんだから、無理に抑える必要はない。無理やり行く馬がいれば2番手、3番手でもいいと思っていましたが、ヴィルシーナが行きたい気持ちを見せていたので、気持ち良く行かせようと思いました」
 好発からスッと頭ひとつ抜け出すと、もともとのスピードが並みの馬とは違う。他馬は早々に前へ行くのを諦め、ヴィルシーナが難なく先手を取る形ができた。ちょうどレースの半分となる前半4ハロンの通過が46秒2。勝ちタイムが1分32秒3であるから、後半4ハロンのタイムは46秒1となる。つまり、前・後半ともにほぼ同じタイムをマーク。いくら馬の行く気に合わせたとはいっても、さすが内田、見事としか言いようのないペース配分である。

馬体は昨年より数段上、もっと走ってくれる

馬体は数段パワーアップ、これに気持ちも復活したとなればさらなる活躍が期待できそうだ 【スポーツナビ】

「ラップが速くなかったので、このペースなら勝てるまでとはいかなくとも必ずいい結果が出ると思いました。うまく先手を取ってからは、あとはペースだけと思っていましたが、馬のリズムも良く、負担のかからないペースで来れましたし、展開にも恵まれたと思いますね」
 内田本人はそう謙遜するが、この東西きっての職人が導き出した絶妙ペース配分が大きな勝因の1つになったことは間違いないだろう。そして何より、この日はヴィルシーナの闘争心が甦っていたのだ。
「とにかく併せ馬になれば踏ん張れるという手応えでした。内・外から馬が来てくれて、この馬にとって一番いい展開になりましたね」
 最内からはGI3勝馬で昨年の最優秀3歳牝馬メイショウマンボ、外からはGI高松宮記念3着のスピード自慢・ストレイトガールが切れ味よく迫ってくる。しかし、好調時のヴィルシーナと言えば、馬体を並べてからがとにかくしぶとい。メイショウマンボは差し切るくらいの勢いで突っ込んできたが、結局最後はGI3勝馬が根負けするような形となり、これを半馬身退けてのゴール。絶好調の3歳時を見るような、ヴィルシーナの真骨頂が存分に発揮された競馬だった。

「僕じゃなくて、馬が頑張りました。もともと走れる能力があった馬でしたし、勝てるだけの能力がある馬でしたからね」と内田。一方の友道調教師もヴィルシーナ完全復活を宣言した上で、今後の期待を力強く言葉に乗せた。
「ようやく、ですね。気持ちは1回戻ってくれば、今後も安定してくれると思います。体は昨年より数段いいですから、このまま気持ちが乗ってくればこれまで以上に走ってくれると思っています」
 この一戦だけを目標にしていたと、とにかくヴィクトリアマイル一本に照準を合わせていたため、今後の路線に関しては現時点で全くの白紙。安田記念、宝塚記念に向かうのか、はたまた春は全休し秋に備えるのかは、今後オーナー、友道調教師、内田らとの話し合いの中で決められるという。

女心と馬券は競馬紳士の永遠の命題?

 よく、移ろいやすいのは「女心と秋の空」と言うけれど、夏を思わせるほど日差しが強かった春5月の日曜日に、昨年のマイル女王が突如として闘争心を蘇らせた劇的復活劇。2着も大阪杯凡走から巻き返したメイショウマンボだった。まったくの蛇足かもしれないけれど、馬券のことを付け加えれば、実力・実績上位のGI馬2頭による1・2着の馬単が2万8,050円、馬連でも8,450円という高配当なのだから、競馬というのは簡単なのか、難解なのか……それとも、やっぱり女心は一筋縄ではいかないのか。これはたぶん、競馬をたしなむ紳士諸兄には解決できない永遠の命題なのだと思います。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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