ランニングは上半身で走る!
【Getty Images】
今までの常識では速くならない?
ランニングは上半身で走る、と聞いて、このように思われる方は多いでしょう。学生時代などに陸上競技の経験がない人は、「走る」という運動について“習った”のは小学校のころが最後ではないでしょうか? そのときの指導に多かったのは「脚を動かせ」だと思います。過去にランニングの指導をした方々に聞いても、学校で習ってきた走りの常識は「脚を一生懸命に動かす」「腕を力強く振る」でした。
現在、一般ランナーからトップアスリートまで幅広くランニングの指導を行っている私も、実は同じように考えていました。大学2年生までは……。
私は学生時代、三段跳びを主として陸上競技をしていました。一時期、まったく記録が伸びず、スランプに陥った時がありました。何をやっても望んだ記録がでない。悩みに悩みましたが、ある動きを身につけてから、記録が伸びました。そう、上半身で身体の動きをつくるようになってからなのです。
私は指導者になり、あらためて人体のメカニズムを学び直してランニングを検証していますが、やはりこの「上半身から動く」ことが理想のフォームにたどり着く方法だと確信しています。
確信したあとは、この上半身から動く感覚をどうやったら簡単に伝えられるか? 1回の指導で動作が変わるのか? これを追い求めて、指導について改良に改良を重ねてきました。そして、そこからメソッド化し、指導をしてみると……。記録が伸びる選手や、走ることがラクになり、走ることが習慣になる人々を輩出するのが、以前よりずっと簡単に早くできるようになりました。
それだけ、ランニングは上半身で走るとラクに、速く走ることができるようになるのです。ではなぜ、上半身から動くとラクに、速く走れるのでしょうか?
なぜ上半身から動くのか
(左)「みぞおちとおへその間」を斜め上に引き上げる/(右)手を前に出し、その状態で足踏みをする 【小林学】
物理学で考えると、重いものを先に前へ動かす方がより効率よく動きます。解剖学から考えると、より強い筋力で動く方が効率よく筋肉が上がります。つまり、人間は上半身から動くほうが効率よく(ラクに)走れるのです。
ではどう動いたらいいのか? ポイントは重心の位置になります。
多くの方は脚を前に出そうと動かして走っています。つまり意識が脚に向いています。そうすると人の重心はおのずと下半身に移動します。上半身から動くには、この重心を上半身に移動させなければなりません。
重心の位置を正すには姿勢が肝心です。姿勢を正し、重心を上半身に移動させる方法がありますので、ここでやってみましょう。
意識するのは「みぞおちとおへその間」(写真左)です。この「みぞおちとおへその間」を斜め上に引き上げてください。すると、少しだけ胸を張ったような姿勢になるでしょう。これがランニングにおいて正しい姿勢になります。
次に、その状態から手を前に出してください(写真右)。“キョンシー”のイメージです。その状態で足踏みをしてください。そして、足踏みをしたまま手をまっすぐ前に引っ張ってください。すると、足踏みしているだけなのに、上半身に引っ張られて前に進んでいくでしょう。これが重心を前に移動させながら走る感覚です。これは重心が上半身にないとできない動きなのです。
さて、ここまでやってみて“走る意識”はありましたか? うまくできている方は脚の力を使わずに勝手に前に進んだはずです。上半身で支えて、上半身から前に進むとこんなにラクに走れるのです。これが私の提唱する「楽RUNメソッド」の中核になります。