田中将大、入団会見で上々の立ち上がり=史上最大級の重圧でのプレーボール

杉浦大介

敗北を“ベースボールの一部”と割り切れるか!?

現地メディアの反応もよく、順調なスタートを切った田中。“1億5500万ドルの男”にはこれからも多くの注目が集まることは間違いない 【Getty Images】

「日本人選手たちは国を代表しているという重圧を自身に課しがちで、受け取った契約の正当性を証明しようとする。黒田(博樹)もそうだった。彼ら自身への期待感を緩めてやらなければいけない。不調の日もあるはずで、それもこのゲームの一部なんだ」

 ジョー・ジラルディ監督が米メディアに語った持論は、実に的確な見方に思える。メジャーの舞台では、田中も打ち込まれることはあるだろう。去年のように、24勝0敗などといった驚異的なレコードで突き進むことはないはずだ。

 しかし、いつか敗れてしまったとき、しばらく負けから遠ざかっている田中は、敗北を“ベースボールの一部”とすんなり割り切れるのか。その後すぐに気持ちを切り替えて、次の登板までに心機一転できるのか。そして、これほどまでに華やかなファンファーレを浴びての登場後、周囲のファンや関係者も本当に辛抱強く彼を見守ってあげられるのか……!?

メジャー取材歴30年のベテランも「良い滑り出し」

 いずれにしても、この日の入団会見では田中がまずは順調なスタートを切ったことは間違いない。

「自信が身体からにじみ出ているような印象を受けた。立ち居振る舞い、話し方も力強く、物怖じしていない感じだったね。英語でのあいさつも地元メディア、ファンに間違いなく良い印象を与えたはずだ。良い滑り出しだったと思うよ」。これまで約30年に渡ってメジャーを取材して来たロイター通信のベテラン記者、ラリー・ファイン氏もそんな感想を述べていた。

 たとえ、たどたどしくとも通訳に頼り切らず、公の場で英語を喋ろうとする外国人アスリートは米国では好意的に受け取られるもの。会見で田中はまさにそれをやり遂げ、その後のイベントの間も照れや恐れは感じられなかった。

 そして、これから先も、こうした堂々とした姿勢を保ち続ける必要がある。良い日も、悪い日も。好投したときだけではなく、めった打ちにされたゲーム後も。メジャーではメディア対応の金額も年俸に含まれるという考え方だけに、“1億5500万ドルの男”はこれから先も誰よりも多くの注目を集めていくことになるのだろう。

ヤンキース史上最大のギャンブルに挑む25歳の若者

 ボールやマウンド、言語や生活環境の違いから、さらには慣れない“敗北”の受け止め方まで……。史上最大級のプレッシャーの中で、田中が適応していかなければならない点は山ほどある。簡単ではないが、自分で選んだ道である。“ヤンキース史上最大かもしれないギャンブル”は、ある意味で、25歳の若者にとって“自身との戦い”でもあるに違いない。

 立ち上がりは上々――。“入団会見”という名の初回のマウンドでは、まずは見事に好スタートを切った。しかし、大変なのはこれから。面白くなるのもまだまだこれから。明日には舞台をキャンプ地のタンパに移し、また新たなイニングの開始を告げるプレーボールの声が再び響き渡ることになる。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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