レベル低下も盛り上がるエールディビジ=オランダサッカーの明暗 第2回

中田徹

選手の流出で強化が進まない

競技のレベル低下と試合の面白さは関係ない。フェイエノールト対AZの一戦も白熱した試合に大観衆が盛り上がっていた 【VI-Images via Getty Images】

 しかし、チームを預かる指導者の立場となると、少しでも長くオランダに残って欲しいということになる。SCヘーレンフェーンのマルコ・ファン・バステン監督はこう提案する。

「オランダリーグの選手はあまりに早く外国へ出て行ってしまうから、チームもなかなか強くならない。選手たちが外国に移籍する際は、まずエールディビジで100試合プレーしてから認める紳士協定を結んではどうか」

 また、オランダ人の得意としていた「試合を読む目」も最近のリーグ戦では怪しくなってきた。試合内容として、1−0とリードしているチームが、同点に追いつかれると突然崩れるケースが目立つのだ。試合というのは生き物だから、相手に流れが変わることは頻繁に起こる。そこでじっと耐え、嵐が過ぎるのを待つ知恵がないのである。言い換えれば90分の試合をうまくコーディネートする力がない。

本命不在でリーグが盛り上がる

 そんな深刻な事態のオランダリーグだが、実は「今季のオランダリーグはとても面白い」という声が起こっている。アヤックス本命でスタートしたオランダリーグだが、アヤックスら昨季上位のクラブが、夏の移籍市場で主力を放出したこともあって今は本命不在。13節までの間にFCフローニンゲン(第1節)、PSV(第2、3、7節)、FCズウォレ(第4〜6節)、FCトウェンテ(第8〜11節)、AZ(第12節)、フィテッセ(第13節)と実に6チームが首位に立っているのだ。

「今季のエールディビジのシナリオは誰も書けない。この面白さはシナリオライターも嫉妬している」と記す新聞記事もある。

 また、下位チームが攻撃サッカーを志向し始めたのも、今季のオランダリーグの盛り上がりに一役買っている。昨季昇格したばかりのズウォレ、そして今季昇格組のゴー・アヘッド・イーグルス、カンブール・レーバーデンは決して恵まれた戦力でないが、しっかりと中盤を作って3トップで攻撃する「ホーラント・スホール(オランダ派)」の伝統的なサッカーで楽しい試合を続けている。

 中堅クラブのフィテッセ、フローニンゲンも「ホーラント・スホール」への回帰を目指している。両チームとも近年、サッカーの内容があまりに手堅くなってしまいファン離れ、スポンサー離れを起こしていた。そこで今季、フィテッセはペーター・ボス、フローニンゲンがエルビン・ファン・デ・ローイに指揮を託し、前者はすっかりイメージアップに成功。後者も17歳のFWリカイロ・ジブコビッチがブレーク寸前とヒントをつかみつつある。

 オランダには毎週日曜日19時からエールディビジのハイライト番組があるが、11月に入ってから2週続けて視聴者が300万人越えを果たした。この数字を報せるウェブサイトは「エールディビジハイライトに対するこんな高い視聴者数は、ここ数カ月なかったこと」と報じている。

 その熱狂は実際にスタジアムに行けば実感できる。最近行った試合の中では11月10日のフェイエノールト対AZ(2−2)が4万6000人の大観衆で盛り上がり、試合内容もシーソーゲームで面白かった。オランダ人も競技のレベル低下と試合の面白さは関係ないと気付いている。サッカー大国、オランダの熱狂は続く。

<続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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