田中将大がNPBで最も打たれない理由

データスタジアム株式会社

与四球率は2年連続リーグトップ

リーグトップの与四球率の低さ、痛打の危険が高い真ん中への投球を避ける制球力の高さが、今季の田中の強さにつながっている 【写真は共同】

 シーズン24連勝をマークし、2013年プロ野球の主役となった東北楽天・田中将大。この1年だけでも、ピンチでの粘り強さやスプリットの威力など、田中に関する多くのデータを各メディアで目にした。特にピンチでの粘り強さについては、すでに語り尽くされてしまった感すらあるほどだ。
 そこで本コラムでは、これまであまり取り上げられてこなかった田中の“制球力”について探りたい。剛腕のイメージが強いだけに注目されづらい部分だが、これも田中にとって大きな武器である。

 制球力を測る一般的な指標として、9イニングあたりの与四球数を表したデータ「与四球率」がある。失点を防ぐ上でも重要とされている指標だ。田中はこの与四球率が昨季0.99、今季1.36と、2年連続でリーグトップ(規定投球回以上)の数値だった。つまり、四球を与えないことに関しては、抜群の制球力を持っていると言える。
 だが、制球力を測る物差しは与四球率だけではない。「四球をどのくらい与えたか」ではなく、「どのゾーンに投げたか」という視点で制球力を測ることができる。

「甘いコースは打たれる」という表現があるように、ストライクゾーンにも打たれやすいコースと打たれづらいコースがあり、投球が「甘いところ」にいかないようにするのも制球力のうちだ。与四球率では測ることができない“細かな制球力”。これが本コラムのメーンテーマとなる。

最も低い「危険ゾーン」への投球

中央の縦3マスのゾーンはいずれも長打率5割を超える危険ゾーンだと分かる 【データ提供:データスタジアム株式会社】

 では、そもそも打たれやすいコースとはどこなのか。ストライクゾーンを縦横3マスずつに9分割した状態で、各コースの長打率(打率では単打と長打を区別できないため)を算出し、投手にとって危険なゾーンというものを割り出してみた。対象は2013年のNPB全打席。もちろん、打者によって得意なゾーン、苦手なゾーンは異なるが、あくまで全体の傾向と捉えてほしい。

 結果、ストライクゾーン中央の縦3マスが明らかに危険であることが分かった。いわゆる“ど真ん中”は長打率5割5分5厘で、その上と下のコースがそれぞれ5割7厘と5割2分1厘。9マスの中でこの縦3マスだけが5割を超えていた。ほかのコースは3割台〜4割台で、最も高いところでも4割2分4厘。中央の縦3マスが、いかに危険なゾーンであるかが分かる。

 したがって、中央の縦3マスのゾーンに投げないこと。これが痛打を避けるための手段のひとつであると言える。では、田中がこのゾーン(以下、「危険ゾーン」と記す)に投げる割合は、どのくらいなのだろうか。次のデータを見てほしい。

田中の危険ゾーンへの投球はわずか10.6%。今季の規定投球回以上の投手で最もその割合が低かった 【データ提供:データスタジアム株式会社】

【危険ゾーンに投げた割合ランキング】
1位:田中将大(楽天)    10.6%
2位:攝津正(ソフトバンク) 11.2%
3位:西勇輝(オリックス)  11.6%
4位:金子千尋(オリックス) 12.2%
5位:則本昂大(楽天)    12.3%
※危険ゾーン投球数÷全投球数

 これは全投球のうち、危険ゾーンへの投球が何パーセントあったかを表したデータ。今季の田中は、規定投球回以上の投手でその割合が最も低かったのだ。NPB平均値14.1%と比べると、3.5ポイントの差がある。この結果から、田中は四球を与えないだけでなく、危険ゾーンを避ける制球力も兼ね備えていることが分かる。2つの意味で“制球力”に優れた投手と言えるだろう。

 すべての球種が一級品と言われる田中でさえ、危険ゾーンへの投球は長打率4割7分8厘を記録する(トータルは2割8分6厘)。日本シリーズ第2戦で寺内崇幸、第6戦でロペスに打たれた本塁打が、まさにその象徴的シーンだ。それゆえ、「ボールがどのゾーンに投じられたか」というのは決して無視できない。いかにボールが危険なゾーンにいかないようにするか、が重要なのである。四球を与えないだけでなく、痛打されないための制球力。今回の分析を通して、田中が圧倒的な成績を残す理由が、またひとつ分かった気がする。

<了>
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著者プロフィール

日本で唯一のスポーツデータ専門会社。 野球、サッカー、ラグビー等の試合データ分析・配信、ソフト開発などを手掛ける。

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