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DeNA梶谷 覚醒呼んだ「弱さ認める強さ」
ギリギリの心を支えた中畑監督の信念

新チーム2年目の今季 つかみ始めた手応え

新チーム2年目、自身プロ7年目の今季。結果は徐々に出始めた
新チーム2年目、自身プロ7年目の今季。結果は徐々に出始めた【(C)YDB】

 13年。DeNAベイスターズの当初の二遊間構想はショート石川雄洋・セカンド内村賢介だった。開幕当初は控えの内野手という立場だった梶谷は、4月9日広島戦に2番セカンドで出場。3回二死満塁で投手大竹寛の放ったショートゴロのセカンドカバーを忘れ、2失点を献上すると、試合直後に中畑監督が「大チョンボ。プロのレベルではない」と懲罰降格を命じる。

 スタンドからの怒声とため息は今年も同じように漏れた。やっちまった……今年もまた、苦難の船出に思えた。


「そうですね……今年もやっぱり何度か苦しい時期がありました。でも、そこで何とか乗り越えられたことは、去年の苦しさやオフに感じた後悔があったからです。あの苦しみに比べれば何てことはないですよ。去年の大みそかに誓ったんです。年が明けたら去年は関係ない。今日が終われば過去。明日は明日。やるべきことをやれば何とかなる。そう自分に言い聞かせてきました。もちろん、エラーをすれば多少は引きずります。でも、忘れるんです。言い方は悪いけど、その試合だけは『打って取り返せばいいだろ』と開き直る。簡単なことじゃないです。ピッチャーの方にも申し訳ないです。でも、その時、その試合だけは忘れる。『今のはグラウンドが悪いんだよ』って、それぐらいの気持ちにもっていかないと、僕自身、また去年と同じ悪循環に陥ってしまう。だから、見た目はエラーしたのに、へらへらしてと思われるかもしれないですけど、そう思うようにしたのが僕なりの対処法だったんです」


 覚醒の契機は6月5日。福岡ソフトバンクとの交流戦だった。

 8回裏、代打で送られた梶谷はホークス千賀滉大の152キロの外角ストレートを、逆らわずにライナーでレフト線を破るツーベースを放つと、翌日も同じく千賀の148キロの外角球を左中間に運ぶ2日連続のツーベース。この打席で、梶谷は大きな手掛かりをつかんだ。

「あれだけの速い球をしっかり捕えられたこと。そして、フォークもしっかり見逃せて、1球で仕留められたこと。これまでならボールに手を出してカウントを悪くしていましたが、この2本のツーベースは今までにないヒットだなって手応えがありました」

3割9分8厘――数字が表す8月の絶好調ぶり

8月は驚異のペースでホームランを量産
8月は驚異のペースでホームランを量産【(C)YDB】

 続く6月8日オリックス戦3安打で、ショートのレギュラーを再び奪取した梶谷は、好調のまま6月22日阪神戦の1打席目でツーベースを放ち打率3割を超える。ところが次の打席で空振三振を喫した際に右手の甲を亀裂骨折。またしても調子が上向いたところで、戦線離脱を余儀なくされるが、今年はここでキレなかった。


 約1カ月後の復帰戦となった8月3日の中日戦で5打数4安打。岩瀬仁紀から今季1号を放つと、11日ヤクルト江村将也(2号)、15日巨人沢村拓一から3、4号と連発。16日広島野村祐輔(5号)、18日広島中崎翔太(6号)、20日、阪神メッセンジャー(7号)、23日巨人高木京介(8号)、9月1日ヤクルト松岡健一(9号)、8日広島久本祐一(10号)、15日中日岡田俊哉(11号)。24日阪神能見(12号)。26日阪神久保田智之(13号)、松田遼馬(14号)2打席連発。28日巨人菅野智之(15号)……と驚異のシーズン47本ペースでホームランを量産。再現VTRを見ているかのような右中間から右翼スタンドへと突き刺さる打球は、明らかにホームランの打ち方をつかんだかのように見えた。

 長打だけではない。苦手だった外角球は左方向へ逆らわずに流し、安打を積み上げた結果、昨年0割8分1厘に終わった8月の月間成績を打率3割9分8厘、8本塁打22打点31得点4盗塁。OPS1.255という結果を残した。

 さらに9月になっても打率3割3分、7本塁打16打点OPS1.023と梶谷の勢いは衰えなかった。これは……いよいよ本物なのか。


「正直なところ、自分でも分からないというのが本音です。僕自身、今年、何が劇的に変わったのか…ただ、分かったことは、“僕は心が弱い”ということを認めることができたのかな。

 今でもやっぱり、不安の方が大きいですよ。毎日『今日打てなかったどうしよう……』ということは思いますしね。『今、野球が楽しいだろう』と言われますけど、僕自身、プロの世界に入ってから、『野球が楽しい』という気持ちは一度も持ったことがないんです。毎試合、使ってもらっている責任に応えなきゃいけない。この先、どれだけ活躍したとしても不安が消えることはないと思います。もっと大きな壁にぶち当たることもあると思うんです。でも、僕はその日、その打席でできることをやるしかない。自分を信じて振りぬく。それだけです」

才能信じる中畑監督の叱咤「まだだ。まだまだ」

ファンの声援に、帽子を取って応える梶谷。この後押しを力にかえる
ファンの声援に、帽子を取って応える梶谷。この後押しを力にかえる【(C)YDB】

 これまでにも余りある才能を持ちながら、精神的な弱さを認めきれずにチームを去っていった数多の選手がいた。

 梶谷もまた、圧倒的な才能を持ちながら、弱い。信じられないようなポカも度々やらかしてしまう。逃げ出したくて、足がすくんでしまうこともある。

 それでも、自分の弱い心を真摯に認め、すくむ足で前に進もうとあがいてきた。

「自分の力はこんなもんじゃない……」

 その言葉を信じてくれる人は少なく、自分すらも疑いかけていた。

 そんな中から信念を曲げず這い上がってきた男に、どうしようもない魅力を感じてしまう。2年前の沖縄で、その才能に魅了された中畑清と同じように。


「いや、まだだよ。まだまだエアポケットはいっぱいある。去年期待してからも、どんどんどんどん落ち込んでいく姿を見てきた。でもこれは誰もが通る道。個人差はあるよ。時間が掛からない選手もいる。だけどカジは落ち込んだら、かなり深く悩むタイプだろ。

 ただ、去年1年の経験でひと回り大きくなったことは間違いない。恐らく彼の人生の中で初めて野球を辞めたくなるほどのつらい時間を過ごしたと思う。それが本人の危機感に火を付け、ラストチャンスだと覚悟した。実際、去年の秋季キャンプあたりから、ひとつひとつの練習に対しても、取り組む姿勢が変わったよ。言われてやる練習じゃなくて、求めて自らを追い詰めていく迫真の気迫があった。

 試合でも、やっとミスした後の切り替えができるようになってきたしな。この前の甲子園でもエラーした後、2本ホームラン打っただろ。ミスしてベンチに帰ってきた時に『切り替えだぞ! カジ切り替えるぞ』、という声を掛けたんだけどな、そういう時も「はい!」って返事ができるようになってきた。これまでは、ミスした後は返事の声も小さくて、ミスを引きずっている感じだったけどさ。今年、やっと可能性を感じさせてくれるものを残してくれた。まだその段階だけどな。まだだ。まだまだ。目に浮かぶよ。あっという間に打てなくなって……ドツボにハマって、元気を無くして下向いているアイツの姿がね……フゥーーーーッ(長いため息)……本当に危険度の高い選手だよ。だけど………その分、魅力もある」


 今シーズンの梶谷の覚醒は本物か。

 それはまだ誰にも分からない。ただ、地獄の底から這い上がって見せた梶谷が、来季1シーズン、中畑の理想である「3番ショート」を貫き通せた時、ベイスターズの宿願はかなり近いものになることは間違いない。

 14年、CS出場、そしてその先に向けて。新たな歴史に“青い韋駄天”梶谷隆幸がようやく、その名を刻む。


<了>

村瀬秀信

1975年8月29日生まれ、神奈川県茅ケ崎市出身。プロ野球とエンターテイメントをテーマにさまざまな雑誌へ寄稿。幼少の頃からの大洋・横浜ファン。

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