Jとの関係が加速するタイサッカーの現状=アジア戦略がもたらす日本への効果
急激に上昇する日本人選手のサラリー
Jリーグのペナントとパートナーシップの「協定書」を手にするタイ・プレミアリーグのウィチット・チェアマン 【共同】
「日本人選手のサラリーは、年々上昇しています。4年ほど前であればトップ選手でも月給にして4〜5万バーツ(1バーツ=約3円)というのが普通でしたが、私の感覚としては、現在はその4、5倍といった水準になっていますから、本当に急激な上昇です。もちろんディビジョン2ではサラリー自体はかなり低額の選手もいますが、それでも住居や食事はチームが提供していますから最低限の生活は可能な条件です。海外でキャリアを始めたいという若手にとっても、可能性のあるリーグになっているといえます」
実際、最近では取材を通じて選手の口から耳にする中にも、「J2時代よりも条件はいい」といったものも珍しくなくなってきた。日本の3分の1程度であるタイの物価を考慮すれば、けっこうな好条件、と表現しても差し支えないように思える。そんな中で冒頭に紹介したバンコク・ユナイテッドFCなどは、「タイ一の富豪一族」ともいわれるCPグループ系列の通信業界王手、トゥルー・コーポレーションの資金力をバックに持つクラブ。「南アW杯戦士」の獲得に可能性ある条件を提示していたとしても何ら不思議はないのかもしれない。
タイサッカーが抱える問題と可能性
それでも、タイサッカーが大きな可能性を秘めているのは事実で、今後も日本サッカーとの関係がより深く親密になっていくのは間違いないだろう。今季に入ってからも清水エスパルスとBECテロ・サーサナ、コンサドーレ札幌とコンケーンFC、横浜F・マリノスとスパンブリーFCがクラブ間提携を締結させており、Jリーグとタイリーグのクラブ間提携は計6組。札幌にいたっては、若手2選手を提携先のコンケーンFCに期限付き移籍させており、「選手の交流」という最終段階に一歩足を踏み入れた。また、ジェフ千葉などで監督を務めた神戸清雄氏がナコンラーチャシーマーFCの監督に就任するなど、さまざまな形でタイリーグに「日本」が浸透し始めている。
だが、まだまだ現地で海外サッカーといえばもっぱら欧州主要リーグを指すのが現状であり、Jリーグの認知度は不十分。Jリーグの「アジア戦略」が機能するには、より一層の選手交流が不可欠だろう。Jリーグでは今、初の東南アジア出身のJリーガーとして札幌入りしたベトナム代表のレ・コン・ビンに注目が集まっているが、もちろんタイにもJリーガーの卵は数多くいる。実際、タイ代表のエースであるティラシン(SCGムアントン・ユナイテッド)や同左サイドバックのテーラトン(ブリーラム・ユナイテッド)らには、常にJリーグクラブからの関心の声が聞こえてくるだけに、初のタイ人Jリーガーの誕生もそう遠い未来の話ではないはずだ。それが実現した時、Jリーグの「アジア戦略」もタイサッカーも、次のステージに突入することになるだろう。
<了>