ボルト、瞬間を全力で駆け抜けた世界陸上=3冠達成も疲労色濃く リオで引退へ

及川彩子

安全運転で200をV リレーも制し3冠達成

ボルトは400メートルリレーをアンカーとして全力で駆け抜けて優勝。今大会3冠を達成した 【Getty Images】

 100メートルの後、「明日はゆっくり休みたい」とボルト。「アイスバスとマッサージを受けたい」と口にするほど、体は疲弊していた。
 16日に行われた200メートル予選は、ジョッグのような走りで、20秒66で楽々の通過。「俺は朝型人間じゃないから、きつかった。体がつらい」と連発した。過去の世界大会には聞かれなかったことだ。
 26歳とまだ若いが、ジュニア時代から全力で走ってきたツケが体に出ていた。タイムを伸ばせば伸ばすほど、体には負担がかかる。記録更新を目指して、頑張れば頑張るほど、ケガは多くなった。準決勝も後半を流して20秒12。危なげなく勝ち進んだが、走りには全くキレが感じられなかった。

 翌17日の決勝。ボルトは4レーンに入った。長身であるため、外側のレーンを好むボルトには、やや不利な状況。そのため、「スタートから全力で入って、先頭で直線に入り、レースをコントロールするつもりだった」とボルト。言葉通り、号砲から飛び出し、直線に入ったときには他の選手に体2つほどの差をつけ、そのままグングンと加速。150メートルの白いラインを通過すると、徐行するような走りでフィニッシュした。記録は今季世界最高となる19秒66。

「150メートルを通過した時から足に張りを感じた。『コーチに無理をするな』と言われていたし、回りをみたら外側のレーンの(ジャマイカのウォーレン・)ウィアーが疲れていたので、大丈夫だと思った」
 安全運転のレースで3連覇を成し遂げた。

 大会最終日のトリを飾る400メートルリレーではアンカーを走り、37秒36の好タイムで優勝し、2009年世界陸上ベルリン以来の3冠を達成した。
「チームメートがよく走ってくれたので3冠がとれた。チームメート、応援してくれた観客の皆に感謝したい」
 今大会3つの金メダルを獲得し、カール・ルイス、マイケル・ジョンソン、さらには女子のアリソン・フェリックス(いずれも米国)の、世界陸上での通算金メダル獲得数8個に並んだ。

「金メダルを取り続けるのが、俺の目標。でもいくつ取ったかは数えていないから……」
 偉大な先輩たちに対して、不遜にもとれるコメントだが、ボルトはその瞬間、瞬間を全力で駆け抜けることだけに集中している。

リオデジャネイロ五輪後の引退を明言

「もう若くない。年齢を感じる」
 200メートルのレース後にそう話し、報道陣を苦笑させたが、それがボルトの本心だろう。充実した冬季練習を送り、万全の状態で臨んだ今季もシーズン直前に肉離れ。ムリをして試合に出たツケが回り、5月、6月は不調から抜け出せなかった。 

 今大会後、400メートルリレーの後にリオ五輪後の引退を明言した。
「あと2つの世界大会の後に引退する。これは決定事項だ」

 以前から言い続けているように、ボルトはあらためて“引退”という言葉を口にした。ボルトが陸上界からいなくなったら……。寂しさも感じるが、こう考えることにしよう。『次の世界陸上北京、そしてキャリアの集大成となるリオ五輪でどんな花火を打ち上げてくれるのか』――それを心待ちにしたい。

<了>

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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