ポルトガルが抱える歴史的な2つの問題点=精神的弱さを助長する楽観的な国民性

市之瀬敦

最後はどうにかなるという思い込み

これまでの国際舞台の成績から、最後はなんとかなると信じられている。その要因はエース、C・ロナウドの存在も大きいようだ 【写真:AP/アフロ】

 準決勝まで勝ち上がったユーロ2000をはじめとして、ポルトガルは21世紀に入り、すべてのW杯とユーロに出場している。そのことは素晴らしい戦績であるが、好成績ゆえに、代表チームだけでなく、国民も予選を勝ち抜いて当たり前、いや、勝ち抜けないわけがないという前提に立ってしまってはいないか。
 特に、10年W杯と、12年のユーロではプレーオフに回りながらも最後は予選を突破でき、しかも本大会ではまずまずの健闘を見せているので、最終的には問題なしという思い込みがあるのではないか。しかも、ポルトガル人の国民性は追いつめられると強いと広く信じられていることも、ある意味災いしているのかもしれない。

 また、なんとかなるということであれば、やはりC・ロナウドの存在も無視できない。現役選手の中ではポルトガル代表の最高ゴール数を誇る絶対的エースがいれば、やはり最後は大きな仕事やってくれる、ポルトガルをW杯に導いてくれると誰もが何となく信じ込んでも不思議ではない。こうなると、16世紀末、イスラム教徒との戦いでモロッコの土地に消えたセバスティアン王子がいつの日かポルトガルの国難を救うために蘇るという、いわゆるセバスティアニズモ(セバスティアン信仰)さえ思い出してしまうのだが、それは話が飛躍しすぎだろう。

 ポルトガル代表がいまひとつ期待に応えらえていない原因は、以上のように精神面が大きいように思える。

緊張感を欠く強化試合のマッチメーク

 ほかにも気になる点が1つある。それは協会によるマッチメークである。昨年のユーロの準決勝でスペインに惜敗した後、ポルトガルは3度の強化試合をこなしているが、相手はパナマ、ガボン、エクアドルという明らかな格下である。しかし、ポルトガルが望むならもっと強豪国との対戦を組むこともできるのではないか。シーズンたけなわの11月にガボンまで遠征することがチーム強化につながるとは思えない。もちろんアフリカのサッカーを経験するのは悪いことではないが、代表の強化にとって優先順位は高くはないだろう。選手もサポーターも、国中誰もがひりひりするような緊張感を味わう試合が少ないのが気になるのである。

 かつて、70年代から90年代前半にかけてポルトガル代表が長く低迷した時期があった。そのころ、サッカー協会の機能不全が指摘されたが、代表チームの現状を見ていると、久しぶりに不毛の時代が再びやってきてしまうのではないかと少し心配になってしまう。幸い、11日はプレーオフで対戦するかもしれないクロアチアとの強化試合が組まれており、ここでは本番さながらの緊張感のあるプレーが期待される。
 ポルトガル戦での敗北を受け、ロシア代表の監督、名将ファビオ・カペッロはもう一度チームを引き締め、残りの5試合を戦うはずである。したがって、ベント監督も言うようにポルトガルとしてはプレーオフ進出を確定させることが現実的な狙いとなる。

 ポルトガルの次の戦いは9月6日の北アイルランド戦。昨年10月の試合では1−1の引き分けであった。アウエーでの厳しいゲームとなるだろうが、そこで勝利できれば、2位以内に入ることはほぼ確実となる。予選の終盤はぜひともポルトガル代表の真価を発揮し、サポーターを納得させる形でブラジル行きを決めてほしいものである。

<了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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