快進撃の松平健太、覚醒した天賦の才=世界卓球

月刊『卓球王国』

ひと握りの選手だけが持つ稀有な才能

どの対戦でも柔らかなブロック、力強い攻撃と、自分の「時間」でのプレーが光った。写真は4回戦のサムソノフ戦 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 松平の強さの秘密は、抜群の予測能力と優れたボールタッチにある。

 卓球台の縦の長さはわずか274センチ。数メートルの距離で、時速100キロに及ぶスピードボール、猛烈なトップスピンがかかったドライブを打ち合う。「卓球選手は反射神経が優れている」と言われることがあるが、実際には打球後の反射では、相手のボールには全く反応できない。常に相手の位置や体の動きを視野に入れ、打球前にコースを予測しなければならない。
 松平は非常に台に近い位置に構えながら、相手の強打を何本でもブロックし、試合を組み立てられる。そして相手のボールのスピードと回転を殺し、台上で2バウンドするほど小さく止める抜群のボールタッチを誇る。

 卓球は「回転」「スピード」「コース」の三つの要素を組み合わせて相手を攻略する競技。そして松平のプレーには、さらに第四の要素「時間」があるように感じられる。優れた予測能力と、ボールを前後にコントロールできるボールタッチによって、打球前には常に一瞬の「間(ま)」が生まれ、相手の待っていないコースにボールが打てる。
 かつて「百年にひとりの天才」と言われたワルドナー(スウェーデン/92年バルセロナ五輪優勝)が、「時間」をコントロールできる選手と言われていた。松平はワルドナーと同じ種類の、特別な才能を持っている。今後、さらにパワーをつけ、ラリーや3球目攻撃での球威を高めていけば、世界の頂点に立つチャンスは十分にある。

低迷期を乗り越えて、打倒中国へ

試合後、サインを求められる松平。現地観客も魅了した 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 これまでの松平の競技人生は、順風満帆とは言えなかった。06年世界ジュニアで優勝した後、07年12月にTFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)のため手術を受け、長期離脱。復帰後、09年1月の全日本選手権で2位に入って同年5月の世界選手権に出場し、馬琳との激戦で世界にその名を知らしめた。しかし、翌年1月の全日本選手権では初戦となる4回戦で敗退。ここから長い低迷期が続いた。
 10年の世界団体選手権ではベンチを温める試合が続き、11年の世界選手権個人戦では、男子シングルスでまさかの1回戦敗退。12年の世界団体選手権では代表から外れる悔しさも味わった。稀有(けう)な才能は、何度も挫折を繰り返しながら磨かれてきた。

 来年の4月28日〜5月5日、東京・代々木第一体育館で世界卓球選手権団体戦が行われる。世界ベスト8の成績を残したことで、松平の代表入りは濃厚だ。他にも水谷隼(beacon.LAB)や丹羽孝希(明大)など、世界がうらやむ才能が集結する日本男子チーム。今回の松平の活躍が周囲を刺激し、さらにチーム全体の成長が加速するはずだ。
 もちろん、最強軍団・中国も必死で松平のプレーを研究してくる。タフで厳しい戦いが待っているが、時に本物より強いコピー選手を作る中国でさえ、松平のコピー選手は作れないだろう。最強軍団・中国が最も恐れる、真の天才プレーヤーの出現だ。

<了>

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