木村沙織が下した主将就任という決断=全日本女子がバレー世界一に輝くために

田中夕子

キャプテン就任を決意、引退も撤回

価値観を変えたトルコへの移籍。木村(中央)は世界を肌で感じることで、全日本でもさらなる高みを目指す気持ちが芽生えた 【写真:アフロ】

 
 絶対に無理。自分はキャプテンなんて任されるような器じゃない。何度考えても、キャプテンを受けるという結論には至らない。

 だがその一方で、少しずつ気持ちに変化が生まれていることにも気づいた。

「もしも自分がこれからのチームを作るとしたら、どんなチームになるかなと考えるようになりました。まだ誰が選ばれるかも全然分からないけど、でも、自分の今の経験を伝えたいとか、もっとみんな海外でやったらいいのにとか、今までとは違う感覚で、先のことを考えるようになっていました」

 3月、キャプテンを受けると決めた。当然、引退も撤回した。

「今までは、1年1年で目標やプランを決めてきたけど、今回は違う。初めて五輪までを1つのサイクルとして考えられるようになりました」

価値観を変えた世界のトップでの経験

 トルコカップ、チャンピオンズリーグ、トルコリーグを無敗で制し、圧倒的な力で3冠を獲得したワクフバンクで、木村の出番は限られていた。
 日本にいる時ならば、不動のものだったポジションが、トルコにはない。これまではほとんど経験のなかったリザーブに回り、チャンピオンズリーグの決勝でも、試合の終盤でピンチサーバーとしてコートに入り、そのまま守備固めをするのが木村の役割だった。

 エースとしての木村を知る日本のメディアやファンからすれば、たとえこれが初めての海外挑戦とはいえ、もっと最初から第一線での活躍を望むというのが多数であり、ワクフバンクでの現状に物足りなさを抱いた人もきっと少なくはないはずだ。だが、試合に出る、出ないという立場以上に、世界のトップが集う環境は、これまでの価値観を変えると言っても大げさではないほど、木村に大きな刺激を与えた。

「海外にいると、ナショナルチームの選手の動向を自然に知ることができます。今まで知らなかった選手もいっぱいいたし、中心と言われている選手よりも、もっともっとすごい選手がたくさんいました。これからは韓国も中国もタイも、ナショナルチームのほとんどが海外に出てくる。このままじゃ、日本だけ置いていかれてしまうような気がして、すごく焦っています」

 4年前のチーム発足時、真鍋は「世界を知る」ことを目標とした。それから4年が過ぎ、今度は「世界一を知る」ことが目標に変わった。

 一歩踏み出したからこそ、見えたもの、感じたこと。そのすべてを伝え、チームに還元することが、自身に与えられた役割だと自認している大黒柱が、その「世界一」を目指すチームのキャプテンを務める。確かに、その役を担えるのは木村しかいない。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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