北島康介の泳ぎに変化、完全復活なるか=競泳日本選手権で見えた課題
北島は日本選手権100メートル平泳ぎで優勝。世界選手権のリレーメンバーに選ばれたものの、課題が明らかになった 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】
それでも100メートル平泳ぎ決勝では、前半の50メートルを28秒45のトップで折り返し、隣のコースで泳いでいた200メートル平泳ぎ世界記録保持者・山口観弘(志布志DC)の追撃を100分の3秒差でかわして、1分00秒78という平凡なタイムながら優勝した。しかし翌日の50メートル平泳ぎは「本来の力の半分も出せていない」と自身が語るように、28秒05の5位に沈んだ。この2つの結果は、まさに北島康介(アクエリアス)の状態を表している。からくも4×100メートルメドレーリレー要員として、世界選手権(スペイン・バルセロナ)の代表権を得たが、北島の課題を明確にするレースだった……。
上半身の力で身体を引きずるような泳ぎ
北島の持ち味は抵抗の少ない姿勢を維持できること。ストロークをしているとき、キックをしているときでも腰の位置が水面近くで常に安定し、効率良く推進力を生み出す。そのためボディーポジションが高く、水によく浮いている。呼吸時に上半身を起こしたときでも、水面と上半身の角度が浅く、常に前傾姿勢で重心を前方に持っていくことができる。もちろん、ストロークやキック単体の技術も高いのだが、そのテクニックを泳ぎ全体に生かし、トータルで良いバランスと絶妙なタイミングで泳ぐのが北島であり、それを支えているのが『低抵抗の姿勢」と『高いボディーポジション』『スムーズな重心移動』の3つの要素なのだ。
今大会の北島の泳ぎには、これらの要素が足りなかった。調子が良いときは、呼吸後にキックを打つ瞬間、背中から腰のあたりが少し丸くなって前傾姿勢になるタイミングがあり、ここでスムーズに重心移動が行われる。この重心移動も腰の位置が安定し、ボディーポジションが高いからこそできる芸当である。
しかし100メートル平泳ぎ決勝で見せた泳ぎは、真逆と言ってもいいほどだった。身体が沈み、腰の位置が安定しないために重心移動がうまくできない。それどころかストリームライン姿勢のときに、北島の持ち味であった水面と平行に近い低抵抗の姿勢がとれない。前面から大きな水の抵抗を受けてしまい、思うようにキックで推進力を得られない。蹴っても進まず、上半身の力だけで必死に身体を引きずるように泳いでいた。
“戻そう”とせず、テクニックの変化で調整
腰の位置が安定せず、ボディーポジションが下がってキックの推進力を得られないことは、北島にとって致命的だ。しかも、ボディーポジションの高さは日々のトレーニングとレース前の調整がうまくいって、身体の調子が整ってこそ得られるものなので、一朝一夕での修復は不可能に近い。普通の選手なら、何とか今まで通りのフォームに“戻そう”とする。身体の調子や状態をテクニックに合わせる調整法だ。実はそれが焦りと力みを生み出して、泳ぎのバランスがさらに崩れて修正不可能になりやすい。
北島は泳ぎを“戻そう”とはせず、自分の現状の100パーセントを出し切るための泳ぎを見つけ出そうした。つまり、今の体調や筋力などを総合的に判断した身体の状態に合わせて、ストロークやキックといった細かいテクニックを変化させて調整するのである。