ポスト竹下と期待される逸材、宮下遥=全日本の未来を担う女子高生セッター

田中夕子

攻撃陣を自在に操り、勝利を手繰り寄せる

宮下はトスにメッセージを込める。目的や意思が明確なため、攻撃陣にも良い連鎖が生まれる(写真は2010年のもの) 【写真:AZUL/アフロ】

 壁にぶつかっても、それを乗り越えるたびに力に変えてきた宮下。最下位に沈んだシーズンの翌年にチームを4位に導いたように、悔しさを糧に成長した姿を再び見せる。今季、2月2日に行われたNEC戦の第5セットで会心のプレーが生まれた。

 15点先取の最終セットの1本目で、宮下が選択した攻撃はライトだった。このセットからライトに入ったパワーヒッターのエース・福田舞が素早く走り込んでおり、ほぼノーマークに近い状態で強烈なスパイクを打ちこんだ。

「福田さんの得意な攻撃なので、1本、2本と決められれば自信がつく。5セット目のスタートで確実に決められるように、ただスピードだけでなく、少し高めのトスを上げるように意識しました」と狙い通りのプレーを展開した。

 試合は中盤まで拮抗(きっこう)した展開が続いたが、9−9から福田がスパイクとブロックで立て続けに得点を奪う。一気に抜け出した岡山が、セットカウント3−2で試合を制した。福田、栗原恵の両サイドの決定力もさることながら、やや疲れの見えた福田を最終セットで蘇(よみがえ)らせた宮下が、陰の立役者だった。

「セッターとしての意識が、今までとは確実に違う。ただ単に点を取る、トスを上げるではなく、『この場面で、この人に、このトスを上げて決めさせたい』という目的や意思がハッキリ伝わってくるタイプ。その思いが伝わるから、攻撃側もそれに応えたいと思い、良い連鎖が生まれるようになりました」とチームメイトの山口舞は、宮下の成長をこう称えた。

「宮下が正セッターなら日本は金を狙える」

 河本総監督が宮下を抜擢(ばってき)し、使い続けてきた理由がある。「彼女が正セッターになれば、全日本女子は金メダルを狙えますよ」

 現在、全日本女子の正セッターは、これまで3度の五輪出場など、長年に渡りそのポジションを務めてきた竹下佳江(元JTマーヴェラス)の休養によって空位となっている。久光製薬でセッターに転向した狩野舞子の待望論が巻き起こるなど、代表でのセッターのポジション争いはこれからも話題を事欠かなさそうだ。

 進化を続ける若き司令塔。かつて自身も天才セッターと呼ばれ、今の宮下と同じころに代表セッターを務め、現在は久光製薬で指揮を執る中田久美監督もこう語る。「今の日本で、トップのセッターを挙げろと言われれば、宮下は間違いなくそこに入ってくる。これから世界と戦って何を感じるか。敵チームながら、楽しみな選手です」

 10歳の時に、テレビで見たアテネ五輪が宮下にとって初めての五輪だった。ひとつずつ、着実に経験を重ね、持ち得る能力が開花する時、彼女はどんな進化を遂げるのか。まだ知らない世界を知った時、どんな選手になるのか。

「いつかチャンスが来たら、自分も五輪に出たいです」

 そう語る宮下におそらく、いや、間違いなく、そのチャンスは訪れるはずだ。きっと、まもなく……。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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