ポスト竹下と期待される逸材、宮下遥=全日本の未来を担う女子高生セッター
攻撃陣を自在に操り、勝利を手繰り寄せる
宮下はトスにメッセージを込める。目的や意思が明確なため、攻撃陣にも良い連鎖が生まれる(写真は2010年のもの) 【写真:AZUL/アフロ】
15点先取の最終セットの1本目で、宮下が選択した攻撃はライトだった。このセットからライトに入ったパワーヒッターのエース・福田舞が素早く走り込んでおり、ほぼノーマークに近い状態で強烈なスパイクを打ちこんだ。
「福田さんの得意な攻撃なので、1本、2本と決められれば自信がつく。5セット目のスタートで確実に決められるように、ただスピードだけでなく、少し高めのトスを上げるように意識しました」と狙い通りのプレーを展開した。
試合は中盤まで拮抗(きっこう)した展開が続いたが、9−9から福田がスパイクとブロックで立て続けに得点を奪う。一気に抜け出した岡山が、セットカウント3−2で試合を制した。福田、栗原恵の両サイドの決定力もさることながら、やや疲れの見えた福田を最終セットで蘇(よみがえ)らせた宮下が、陰の立役者だった。
「セッターとしての意識が、今までとは確実に違う。ただ単に点を取る、トスを上げるではなく、『この場面で、この人に、このトスを上げて決めさせたい』という目的や意思がハッキリ伝わってくるタイプ。その思いが伝わるから、攻撃側もそれに応えたいと思い、良い連鎖が生まれるようになりました」とチームメイトの山口舞は、宮下の成長をこう称えた。
「宮下が正セッターなら日本は金を狙える」
現在、全日本女子の正セッターは、これまで3度の五輪出場など、長年に渡りそのポジションを務めてきた竹下佳江(元JTマーヴェラス)の休養によって空位となっている。久光製薬でセッターに転向した狩野舞子の待望論が巻き起こるなど、代表でのセッターのポジション争いはこれからも話題を事欠かなさそうだ。
進化を続ける若き司令塔。かつて自身も天才セッターと呼ばれ、今の宮下と同じころに代表セッターを務め、現在は久光製薬で指揮を執る中田久美監督もこう語る。「今の日本で、トップのセッターを挙げろと言われれば、宮下は間違いなくそこに入ってくる。これから世界と戦って何を感じるか。敵チームながら、楽しみな選手です」
10歳の時に、テレビで見たアテネ五輪が宮下にとって初めての五輪だった。ひとつずつ、着実に経験を重ね、持ち得る能力が開花する時、彼女はどんな進化を遂げるのか。まだ知らない世界を知った時、どんな選手になるのか。
「いつかチャンスが来たら、自分も五輪に出たいです」
そう語る宮下におそらく、いや、間違いなく、そのチャンスは訪れるはずだ。きっと、まもなく……。
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