個人的感慨、石橋・飯田・森田新調教師の思い出話=乗峯栄一の「競馬巴投げ!」

乗峯栄一

飯田祐史騎手とは結構長い付き合いで

[写真1]新馬に騎乗する石橋守、いつも笑顔で会釈してくれた 【写真:乗峯栄一】

 今年度の調教師試験合格発表があり、関西からは石橋守、飯田祐史の両騎手、松田博厩舎の森田直行厩務員の3人が新調教師の称号を得た。

 石橋騎手とは個人的にはそんなに付き合いはないが、トレセンですれ違うと、いつも笑顔で会釈してくれるし、ぼくらに近い人間が主催する、ほんと一般競馬ファンの集いにも気軽に参加してくれた。不思議なもので「ダービージョッキーが参加する会」ということになると、一気に飲み会の格が上がり、こちらも高揚したものだ。
 石橋、飯田両騎手なら、まずメイショウサムソンであり、メイショウオウドウだと思うが(そういえば両騎手ともメイショウの馬と縁が深かったなあ)、あの頃はまだカメラ持ってトレセン行ってなくて、最近の写真しかない。残念だ。

[写真1]はエクスプライド(松永昌厩舎)という新馬に乗る石橋守で、[写真2]はキュートシルフ(飯田明厩舎・ショウリノメガミの子で期待されたが2勝で終わり、今年春繁殖にあがった)に乗る飯田祐史だ。
 飯田祐史騎手とは結構長い付き合いだ。もう十数年前になるが、ある競馬雑誌から「騎手と一緒に園田に行って馬券勝負してください」と言われる。雑誌社が各自に馬券代五万円を提供し、自分の好きなように賭け、当たれば配当は各自のもの、当たらなくても自分のポケットには被害がないという企画だそうで、いままで色々なギャンブルをやってきたが、こんな甘い話は初めてだ。

「前から飯田のファンだった」と、そのとき思うことにした

[写真2]飯田とはけっこう長い付き合いなんだ 【写真:乗峯栄一】

「参加騎手ですが、藤田伸二、小原義之、飯田祐史、藤井正輝の四名です」
 編集長の言葉に、ウッと一瞬絶句する。競馬マスコミ中途採用者のぼくは、いまでも騎手と聞くと必要以上に緊張する。「藤田がよー、飯田がよー」と競馬場では何の躊躇もなく豪語するが、直接話すとなると、極度に意識する。しかもこの四人とは一度も話したことがない。

「みんな、乗峯さんは知ってるよね」
 編集長がぼくを騎手たちに紹介する。緊張の一瞬はいきなり訪れた。知らないよ、きっと、知ってる訳がないと、騎手への負い目と生来の劣等感気質が体に充満する。
「知ってますよ、スポニチのコラム書いてる人でしょ」と藤田伸二が言う。笑顔である。気むずかしいとか聞いていたけど、めちゃくちゃ性格よさそうやないか。
「え、ほんと……」と首を傾げながら、ぼくは席に座る。
「あのコラムは、騎手はだいたい読んでると思いますよ」
 横の飯田祐史が強力な二の矢をくれる。
「え?」
「ほんとに。大体の騎手が読んでると思いますよ」

 ぼくは前から、飯田祐史というのは若いけど騎乗も言動も一本筋の通った男だと思っていたんだ。「前からファンだった」と、そのとき思うことにした。

しっかりしたリーダーになっていくように思う

[写真3]須貝厩舎のローブティサージュ 【写真:乗峯栄一】

 雑誌編集長は東京から来ているし、園田周辺を一番知っているのは乗峯ということで、打ち上げ会はぼくが近所の小汚い店に連れて行く。「キタネえ店だなあ」などとも言わず、騎手たちは機嫌良く飲んでくれる。よかった。しかし話題に困り、ビールのグラスばかりグビグビあおっていると、「今年のナンバー1はね、『タイタニック』じゃなくて、北野たけしの『HANA−BI』だと思うんですよ。どうですか、乗峯さん」と、正面に座った飯田祐史が聞いてきた。映画の話である。それもタイタニック旋風の吹いていた時に異を唱えている。なかなかの映画通とみた。
 小説も好きだという。ぼくがめったに売れない小説を書いているというと、是非送ってくれと住所を書いてきた。

 それ以来、色々付き合ってきた。01年メイショウオウドウ鳴尾記念逃げ切りもよかったが、印象深いのは02年きさらぎ賞メジロマイヤーの勝利だ。「やった、やった、これでマイヤー、クラシック出放題だ。特に飯田祐史、ダービー参戦は初めてのはずだ」と喜んでいると、翌週、騎手は落馬事故に巻き込まれ、股関節脱臼の大ケガをする。全治半年と言われ、クラシック参戦は夢と消える。
 病院に見舞いに行くと、手術した股関節が癒着しないようにと、膝下に太いボルトを貫通させ、その両端に重りをつり下げてベッドの外に投げ出している。思わず目をそむけたくなる光景だったが、飯田祐史は「いや、それが別に痛くないんですよ」と笑っていた。アクシンデントや苦難があっても、また逆に重賞勝利などのいいことがあっても、割合いつも淡々としている。こういう性格の人間は調教師になっても、しっかりしたリーダーになっていくように思う。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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