岩田卓也、亡き母と共に歩んだクラブW杯への道=“見えないチカラ”に導かれて立つ夢の舞台
人生の潮目を変えた”ひと言”
左足の高い技術と思い切りの良いプレーでチームの信頼を勝ち取った 【写真:アフロ】
「(母に)見られていると思うと下手なプレーはできない」。そう思うと、慣れない異国のプレーでも気負わずに自然体で臨めるようになり、自分でも驚くほどに結果が出るようになった。エッジヒル・ユナイテッドでの岩田はチームの絶対的な存在として、クラブがリーグのタイトルを総なめするのに大きく貢献、自らもクラブの年間MVPに輝く。
「皆に必要とされて、本当に心からサッカーを楽しめた」という、このケアンズでの大活躍が、オーストラリアのトップリーグ・Aリーグのクラブでの練習参加、上位リーグのクィーンズランド州リーグ(二部相当)のチームに引き抜かれることへとつながった。
このころと時を同じくして、サッカー・キャリアの潮目を大きく変える出来事を経験する。ケアンズでひょんなことで知り合った日本人に、「ニュージーランドに渡り、オークランド・シティに入団すればクラブW杯に出場できる」と教えられた。その瞬間から、岩田は “クラブW杯への道”を歩み始めた。
“見えないチカラ”に導かれて
セントラル・ユナイテッドには、練習参加後にすんなり入団が決定。さらに入団直後、左サイドバックのレギュラーがけがで離脱したことで、ポジションが空く幸運にも恵まれた。その幸運を逃さずに努力を続けた岩田は、念願のオークランド・シティ入団のビッグチャンスを自らつかみ取る。左サイドバックのレギュラーだったニュージーランド代表の選手が海外移籍、オークランド・シティがその後釜を探していたという偶然が重なったのだ。
「そういう(超常現象みたいな)のは普段は全く信じないんですが、ここまで、物事が良い方に転がるのは、母がいつも見守ってくれているおかげだと思うようになりました」。
何とも説明の付かない “見えないチカラ”に導かれ、夢の実現までもう一歩というところまで岩田は歩を進めた。
憧れのカズに近づく夢舞台
12月6日、オークランドでは配達の仕事と兼業しながらプレーする“タク”が、横浜国際総合競技場のピッチに立つ。その瞬間、海外チーム所属でクラブW杯に凱旋(がいせん)出場する日本人選手として、自らも尊敬してやまない“キング”こと三浦知良(現・横浜FC)、同じオークランドのユニホームで戦った大先輩・岩本輝雄といった偉大な先達に肩を並べる。
“見えないチカラ”に導かれた夢舞台。90分の至福の時間を駆け抜ける息子の晴れ姿を、父と妹のひざに抱かれた「母」がスタンドのどこかで見守るだろう。その「母」への感謝の思いを胸に、オークランドの背番号3は躍動する。
<了>