常識を覆す超人、ソニー ビル・ウィリアムズ=ラグビー界のスーパースターがトップリーグを熱くする

構成:ぴあ

理想のCTBへ飽くなき向上心

日本シーズン終了後はラグビーリーグ復帰と言われるが、SBWは言葉を濁した。本人も含め来季のことは誰にも分からない 【スエイシナオヨシ】

 SBWには理想のCTB像がある。
「まずスペースを見つけることができること。そして、そのスペースに他の選手を走らせることができること。それから、自分からも突破できること。さらにディフェンスラインを組織的に動かすことができ、FWもコントロールできるのが理想の12番です」

 193センチ、108キロの巨躯を生かし中央突破を敢行したかと思えば、キックで裏のスペースを突くこともある。代名詞のオフロードパスは、まさに味方をスペースに走らせる一撃である。攻守に関係なく、CTBを組む霜村誠一主将も、三宅敬、山田章仁、田邉淳のバックスリーも、背番号12がどう動くか、背中を見つめている。まさにSBWは理想のCTB像を具現化していると思えるが、本人の認識は違う。
「私の描く理想の12番に到達することは一生ないと思います。なぜなら、80分間にわたり完全に試合を支配できるCTBが理想だからです。ただ、その理想とするCTBに少しでも近づくために、日々努力しています」
 また、こうも言う。
「ラガーマンとして、常に成長することが大事。すごくいい試合があったとしても、80分間の中には修正しなければならない部分は必ずあります。そういう細部を突き詰めていくことが、チームの、そして自分の成長につながると思う」

来季以降の話は語るべきことではない

 世界中のラグビーファンにとって1つ心配事がある。その心配事の主人公が誰あろうSBWだ。来季のラグビーリーグ復帰のニュースに、楕円球にひかれる人々が「オールブラックスのジャージを着たSBWがもう見られないのでは?」とヤキモキしているのである。どんな質問にも、真摯(しんし)に謙虚に正直に答えてきたSBWだが、この質問だけは言葉を濁した。
「今のところ何とも言えません。YESともNOとも言えない。それは誰にも分からない。ただひとつ言えるのは、自分ができるいいパフォーマンスを常に出して、オールブラックスの扉が常に開いている状態にすることが大事だということです」

“今”を生きる男にとって、来季以降の話は語るべきことではないのかもしれない。いや、来季になった時に、何を感じ何を思い何を決断するかが絶対唯一のプライオリティーなのだろう。

 そもそもラグビーリーグとラグビーユニオンの行き来だけでも、決して容易ではないはずである。にもかかわらず、SBWは「リーグでもユニオンでも、タックルしボールを奪い、オフロードを出し、スペースを作って周りを生かすなど、やることは同じ。5年前にリーグからユニオンに来た時は、確かに難しいチャレンジだったけど、私はもともとリーグで育ってきているので、トップリーグのシーズン終了後にリーグに戻るのはそんなに難しいことではないでしょう」とさらりと言ってのける。

トップリーグ5位からの優勝を描く

パナソニックは現在5位につけるが、SBWはあきらめていない。「優勝までいける」と信じて疑わない 【(C)2012 JRFU】

 ボタとのボクシングマッチについても同様である。トップリーグ第8節、近鉄ライナーズ戦で右肩を負傷した上、相手はマイク・タイソンやイベンダー・ホリフィールドと対峙したビッグネームなのだが、SBWの言葉に悲壮感はない。
「まだ痛みがあります。オーストラリアへ帰った後、詳しい検査を受けないと、まだ試合ができるかどうか分からない。ボタは経験のあるボクサーなので、万全の状態でなければ闘えません。ただ、今回もしケガで試合が延期になったとしても、またどこかのタイミングでボタと闘いたいと思っています(編注:試合は来年2月に延期)」

 もともとボクシングは、ラグビーのためのトレーニングとして始めた。
「シーズン前にボクシングをやるようになってフィットネスが高いレベルにあり、身体もよく動いた。ボクシングは私の体力を向上させる重要なファクター。ただ、ボクシングの試合前の緊張感はラグビーとは全く違います。ラグビーには仲間がいるが、ボクシングは自分だけ。試合が終わった後の解放感はまた味わいたいと思わせるものがある」

 チャレンジをこよなく愛する世界一のCTBは、その道のりが困難なほど胸に闘志を秘めるのだろう。だからこそ、トップリーグ5位からのプレーオフ優勝というシナリオを描いている。
「チームとして、もっともっと一生懸命に走り回る情熱、意識を高めていかなければならない。あとはディフェンスをもっとしっかり安定させなければならない。個人としては一試合一試合を戦いながら、修正すべきところを修正して、次の試合に臨んでいきたい。それにパナソニックにはいいスキルを持った選手が多いので、さらに学んで成長したい」

 そして、「敵はどこでもいい。私たちはどんな敵が来ても勝てるだけの力はあると信じています。優勝までいけると信じています」と誓った。
 ソニー ビル・ウィリアムズは、トップリーグでの“今”にベストを尽くす。

<了>

取材・構成:碧山緒里摩(ぴあ)/撮影:スエイシナオヨシ
ソニー ビル・ウィリアムズ/Sonny Bill Williams
1985年、ニュージーランド生まれ。193センチ、108キロ。パナソニックワイルドナイツ所属、CTB。2002年、13人制のブルドッグスとプロ契約。04年にプロデビューし、13人制のニュージーランド代表キウイズ初テスト。08年、フランスのトゥーロンへ移籍し、15人制のラグビーリーグへ転向。10年、15人制のニュージーランド代表オールブラックスで初キャップ、11年W杯に出場し優勝に貢献。同年、クルセーダーズ(ニュージーランド)へ移籍し、12年、チーフス(ニュージーランド)でスーパーラグビー優勝の原動力となる。09年、ボクシングでプロデビュー。5勝(3KO)、NZヘビー級王者である。

トップリーグ2012-2013 第9節〜第13節のチケットは11月3日(土)発売開始

トップリーグ2012-2013 第9節
12月1日(土)13:00 サントリーvs.NTTドコモ(山梨中銀スタジアム)
12月1日(土)13:00 東芝vs.ヤマハ発動機(熊谷ラグビー場)
12月2日(日)12:00 NTTコムvs.神戸製鋼(近鉄花園ラグビー場)
12月2日(日)13:00 パナソニックvs.トヨタ自動車(太田市運動公園陸上競技場)
12月2日(日)13:00 サニックスvs.キヤノン(グローバルスタジアム)
12月2日(日)14:00 近鉄vs.リコー(近鉄花園ラグビー場)
12月2日(日)14:00 九州電力vs.NEC(熊本県総合運動公園陸上競技場)

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