没落の危機に瀕する名門ミラン=放漫経営がもたらした三つの課題
不可解な故障者続出
難しい舵取りを余儀なくされているアッレグリ監督 【Getty Images】
以下に記す数字は、故障者が戦線離脱した試合数の累計。5年前(2007−08シーズン)のミラン選手は通算151試合を欠場。翌08−09シーズンは同161、09−10シーズンは218、10−11シーズンは184とおおむね大差なく推移してきたのだが、これが突如として昨季は307へと増加。一方で、2年前の210を昨季には44へと大幅に減少させたユベントスとは実に対照的である。
そして、この故障に関して続ければ、特筆すべきはFWアレシャンドレ・パトの度重なる戦線離脱である。10年1月から数えて、今年8月に負った最後の負傷を含めるとその数は実に15回。原因が医学的に解明されているわけではないため一概には言えないとしても、23歳にしてこの頻度はやはり異常、不可解としか言い様がない。
いわゆる放漫経営のツケを払う形で、ミランは財政規模の縮小を余儀なくされた。もちろん他のクラブもおよそ似たような事情にあるのだから、ミランだけをやり玉にあげるわけにはいかない。だが、前述の通り今夏の移籍市場も地味な動きに留まるよりほかなく、「売却益6300−支出1780=4520万ユーロ(約46億円)」と今回は黒字で終えたものの、その結果としてできあがったチームは、ミスターの言葉を借りれば、「国内ではユベントス、ナポリ、ローマ、インテルに次ぎ、ラツィオと並ぶ5番目の戦力」となる。先のセリエA第3節のホームでのアタランタ戦、ミランの出来は悲惨だった。A残留を最大の目標とするアタランタに0−1で敗れた試合は、これ以上ない形でミランの実力を物語っていた。バラバラのDFラインはMFと大きく乖離(かいり)し、前線へのボールはことごとく敵の守備網に絡めとられ、FW陣は孤立。さらに個人技で相手DFの2、3枚を蹴散らすイブラヒモビッチのようなFWはない。加えて言えば、肝心の中盤にかつて在籍したアンドレア・ピルロのようなゲームメーカーは存在せず、「トップ下10番のケビン・ボアテングを封じれば勝機を見いだせる」というアタランタ監督ステファノ・コラントゥオーノの策がハマると、もうミランに打つ手はなかった。
イタリア人中心の構成は吉と出るか
ところが、言わずもがなだが実際には決して多くの時間があるわけではない。今日18日にはCLグループリーグの初戦となるアンデルレヒト戦、続いて23日の国内リーグ第4節ウディネーゼ戦、第5節の対カリアリ戦(26日)、第6節のパルマ戦(29日)を経ると、来る10月3日にはCL第2戦で、ロシアの強豪ゼニト・サンクトペテルブルクとのアウエー戦が控えている。さらに、その週末の7日にはミラノダービーが行われる。
おそらく、低くはない確率でこの10月初旬が一つの分岐点となるだろう。
ネガティブな状況に取り巻かれる中で、それでも敢えて前向きな視点でミランを見るとすれば、それは昨季以降のユベントスがそうであるように、国内選手の層が増加の傾向にあるという点。と同時に、デ・シーリョやFWステファン・エル・シャーラウィら有望な若手に出場の機会が多く与えられるようになっている事実だ。今季、第1節サンプドリア戦では敗れたとはいえスタメン11人中7人、勝利した第2節ボローニャ戦では実に11人中10人がイタリア人選手で占められていた。これだけの数が並ぶのはカペッロが率いた95年以来となる。当時のミランはスタメンの多くがイタリア人選手で占められていた。また、同シーズンを制した時のユベントスも、イタリア人選手中心の構成となっていた。以降は、ボスマン判決で流れは劇的に変化して行くのだが、やはり今にして言えるのは、未曾有の経済危機が雄弁に物語っているように、もはやサッカー界におけるグローバリズムも限界を迎えているということだ。
果たして「クラブ本来の意義に立ち返る」ことが波及して行く契機となり得るのか。この点もまた、10月初旬の分岐点でわれわれは微かながらも答えを見出すことができるのかもしれない。もちろん、その前にCL初戦となるアンデルレヒト戦でミランがいかなる戦いをみせるのか。多くの意味で目の離せない一戦である。
<了>