中本の入賞は「立派」、日本が今大会から学ぶべきことは?=金哲彦氏がレースを解説
藤原は筋力を使いすぎてスピードダウン
前半は上位勢についていたが、後半失速して45位に終わった藤原 【写真は共同】
藤原選手は、入賞が見えるところでスピードアップに対応して、後半落ちてくる選手を拾う作戦でした。その通り、10キロすぎのペースアップにちゃんと対応していて、これは今までの選手ではできないことだと思いました。また、中本選手も藤原選手の後方にいましたが、さほど距離はなかった。結果的には、藤原選手が中本選手をアシストしたような形になりましたね。
――藤原選手は終盤まで7位集団にいましたが、なぜ遅れてしまったんですか?
周回コースの3週目には、足が追い付かなくなっていました。序盤のスピードには対応できましたが、筋力を使い過ぎて、後半急激にスピードダウンしました。周囲のペースが上がったのではなく、自分で勝手に落ちてしまったのです。
――スタミナ切れということですか?
いいえ、エネルギー切れはしていないと思います。しかし、乳酸がたまって、足が踏ん張れない、力が入らなくなってしまったんでしょう。
――藤原選手はスピード練習を中心に行っていたようですが。
そのチャレンジは評価しています。これからも、世界はスピードマラソンであることは確かなので、大きく方向転換せず、今回の経験を生かしてほしいですね。
ただ、コースや気候、五輪という大舞台であることなど、レースによって条件は変わってきます。ですから、この結果は練習方法の良し悪しではなく、総合力の問題です。今回足りなかったものを補って、次に生かしてほしいですね。
――というと、藤原選手に足りなかったものとは……?
いくつかあると思いますが、本人が一番よく分かっているはずです。それを克服しないとだめですね。
日本勢はスピードも持久力も必要
中本選手のような後半型の選手には良かったですね。上位の選手たちが、徐々に落ちてきましたから。25度くらいのカラっとした感じでしたが、(5日に行われた)女子マラソンは14度しかなかったですから、その差は大きいと思います。
――ウガンダの選手が出てきたということについては?
もともと、ケニア、エチオピアは選手層が厚いんです。ただ、ウガンダ、タンザニア、エリトリアはほぼ同じ地域で高地にありますから、選手層が薄いだけで、技術的にも地理的にも変わらないんですね。
――今大会をきっかけに、日本はこれからどう取り組めばいいでしょうか?
アフリカ勢の強さは変わりません。ですから、日本勢はスピードも持久力も両方つけていかなくてはなりません。
しかし、今回学ぶべきことは、決してスーパースターではない中本選手でも入賞できたということです。中本選手はものすごい記録を持っているわけではないですから、ほかの選手が「やればできる、入賞できる」という自信を持ったと思います。これは、とても大事なことで、アフリカが強いから無理なんだと思い込んでしまったらだめなんですね。
ただし、アフリカ勢とは幕内と幕下くらいレベルが違いますから、来年の世界選手権(モスクワ)ごろまでには、積極的に2時間7、8分台の記録を狙って、最終的に5分台で走るくらいまでいかないといけないですね。
――2大会ぶりの入賞を果たして、日本男子マラソンに活路は見えましたか?
そう、思います。五輪の結果が大事ですから、選手だけでなく、関係者や指導者含め、胸をなでおろしていると思います。ですが、6位入賞は安心できる結果でもないですから、また4年後に向けて、油断はできないけれど自信を持てた結果と言えるのではないでしょうか。
<了>